日本国憲法

ここでは、日本国憲法ができた過程を中心に話しをしたいと思います。

1.第2次世界大戦終了(太平洋戦争終了)
1945年2月:ヤルタ会談(ヤルタ協定)(米ローズヴェルト・英チャーチル・ソ連スターリン)。ドイツ降伏後の処理について話し合われる。秘密協定として、ドイツ降伏後2、3ヶ月のうちにソ連が対日参戦をすることが決められていた。
1945年3月:硫黄島全滅。同年4月、沖縄本島アメリカ軍上陸、6月下旬には、日本軍は壊滅し、アメリカ軍によって占領される。
1945年5月:ドイツ降伏。
1945年7月:ポツダム会談(米トルーマン・英チャーチルのちにアトリー・ソ連スターリン)。ドイツ処理問題について会談する。
1945年7月26日:ポツダム宣言(米・英・中のちにソ連)。日本の無条件降伏と基本条件。日本が宣言を黙殺。
1945年8月6日:アメリカ、広島に原子爆弾を投下。
1945年8月8日:ソ連、日ソ中立条約を侵犯し、日本に宣戦布告、満州・南樺太・千島に侵入。
1945年8月9日:アメリカ、長崎に原子爆弾を投下。
1945年8月9日深夜、8月14日:御前会議にて、ポツダム宣言受諾決定される。
1945年8月14日夜:中立国スイス政府を通じて連合国側に通告される。
1945年8月15日正午:天皇のラジオ放送により国民に明らかにされる。
1945年9月2日:東京湾上のアメリカ戦艦ミズーリ号上で、日本と連合国との降伏文書調印式が行われる。

2.ポツダム会談(ポツダム宣言)
1945年7月17日から8月1日まで、ドイツベルリンの郊外にあるポツダムにおいて、アメリカ(トルーマン)、イギリス(チャーチルのちにアトリー)、ソ連(スターリン)の3ヶ国首脳が会談をしました。戦後のヨーロッパ秩序について合意をしたものであるポツダム協定とは別のものであるので注意が必要です。内容は、日本の戦後処理方針と日本全軍隊の無条件降伏を勧告したものです。対日戦を戦っていたアメリカ・イギリス両国が、
ポツダム会談中に合意に達し、会談に招聘されていない蒋介石(中国)に電信によって、意見を求めた結果、アメリカ・イギリス・中国の3ヶ国の宣言として、7月26日に公表されました。その時点では、対日参戦をしていなかったソ連に対しては、公表後、詳細が知らされ、対日参戦後、加えられました。

「ポツダム」共同宣言(米、英、支三國宣言)
昭和20(1945)年7月26日 ポツダム(Potsdam,Germany)で署名
昭和20(1945)年8月14日 日本受諾


吾等合衆國大統領、中華民國政府主席及「グレート、ブリテン」國總理大臣ハ吾等ノ數億ノ國民ヲ代表シ協議ノ上日本國ニ對シ今次ノ戰爭ヲ終結スルノ機會ヲ與フルコトニ意見一致セリ


合衆國、英帝國及中華民國ノ巨大ナル陸、海、空軍ハ西方ヨリ自國ノ陸軍及空軍ニ依ル數倍ノ増強ヲ受ケ日本國ニ對シ最後的打撃ヲ加フルノ態勢ヲ整ヘタリ右軍事力ハ日本國ガ抵抗ヲ終止スルニ至ル迄同國ニ對シ戰爭ヲ遂行スルノ一切ノ聯合國ノ決意ニ依リ支持セラレ且鼓舞セラレ居ルモノナリ


蹶起セル世界ノ自由ナル人民ノ力ニ對スル「ドイツ」國ノ無益且無意義ナル抵抗ノ結果ハ日本國國民ニ對スル先例ヲ極メテ明白ニ示スモノナリ現在日本國ニ對シ集結シツツアル力ハ抵抗スル「ナチス」ニ對シ適用セラレタル場合ニ於テ全「ドイツ」國人民ノ土地産業及生活様式ヲ必然的ニ荒廢ニ歸セシメタル力ニ比シ測リ知レザル程度ニ強大ナルモノナリ吾等ノ決意ニ支持セラルル吾等ノ軍事力ノ最高度ノ使用ハ日本國軍隊ノ不可避且完全ナル壊滅ヲ意味スベク又同様必然的ニ日本國本土ノ完全ナル破滅ヲ意味スベシ


無分別ナル打算ニ依リ日本帝國ヲ滅亡ノ淵ニ陥レタル我儘ナル軍國主義的助言者ニ依リ日本國ガ引續キ統御セラルベキカ又ハ理性ノ經路ヲ日本國ガ履ムベキカヲ日本國ガ決定スベキ時期ハ到來セリ


吾等ノ條件ハ左ノ如シ
吾等ハ右條件ヨリ離脱スルコトナカルベシ右ニ代ル條件存在セズ吾等ハ遅延ヲ認ムルヲ得ズ


吾等ハ無責任ナル軍國主義ガ世界ヨリ驅逐サラルルニ至ル迄ハ平和、安全及正義ノ新秩序ガ生ジ得ザルコトヲ主張スルモノナルヲ以テ日本國國民ヲ欺瞞シ之ヲシテ世界征服ノ擧ニ出ヅルノ過誤ヲ犯サシメタル者ノ権力及勢力ハ永久ニ除去セラレザルベカラズ


右ノ如キ新秩序ガ建設セラレ且日本國ノ戰爭遂行能力ガ破砕セラレタルコトノ確證アルニ至ル迄ハ聯合國ノ指定スベキ日本國領域内ノ諸地點ハ吾等ノ茲ニ指示スル基本的目的ノ達成ヲ確保スル為占領セラルベシ


「カイロ」宣言ノ條項ハ履行セラルベク又日本國ノ主權ハ本州、北海道、九州及四國竝ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ


日本國軍隊ハ完全ニ武装ヲ解除セラレタル後各自ノ家庭ニ復歸シ平和的且生産的ノ生活ヲ營ムノ機會ヲ得シメラルベシ


吾等ハ日本人ヲ民族トシテ奴隷化セントシ又ハ國民トシテ滅亡セシメントスルノ意圖ヲ有スルモノニ非ザルモ吾等ノ俘虜ヲ虐待セル者ヲ含ム一切ノ戰爭犯罪人ニ對シテハ嚴重ナル処罰ヲ加ヘラルベシ日本國政府ハ日本國國民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向ノ復活強化ニ對スル一切ノ障礙ヲ除去スベシ言論、宗教及思想ノ自由竝ニ基本的人権ノ尊重ハ確立セラルベシ

十一
日本國ハ其ノ經濟ヲ支持シ且公正ナル實物賠償ノ取立ヲ可能ナラシムルガ如キ産業ヲ維持スルコトヲ許サルベシ但シ日本國ヲシテ戰爭ノ為再軍備ヲ為スコトヲ得シムルガ如キ産業ハ此ノ限ニ在ラズ右目的ノ爲原料ノ入手(其ノ支配トハ之ヲ區別ス)ヲ許可サルベシ日本國ハ將來世界貿易関係ヘノ參加ヲ許サルベシ

十二
前記諸目的ガ達成セラレ且日本國國民ノ自由ニ表明セル意思ニ從いヒ平和的傾向ヲ有シ且責任アル政府ガ樹立セラルルニ於テハ聯合國ノ占領軍ハ直ニ日本國ヨリ撤収セラルベシ

十三
吾等ハ日本國政府ガ直ニ全日本國軍隊ノ無條件降伏ヲ宣言シ且右行動ニ於ケル同政府ニ對ノ誠意ニ付適當且充分ナル保障ヲ提供センコトヲ同政府ニ對シ要求ス右以外ノ日本國ノ選択ハ迅速且完全ナル壊滅アルノミトス

【現代語訳】

われら合衆国大統領、中華民国政府主席及びグレート・ブリテン国総理大臣は、われらの数億の国民を代表して協議の上、日本国に対して、今次の戦争を終結する機会を与えることで意見が一致した。


合衆国、英帝国及び中華民国の巨大な陸、海、空軍は、西方より自国の陸軍及び空軍による数倍の増強を受け、日本国に対し最後的打撃を加える態勢を整えた。この軍事力は、日本国が抵抗を終止するまで、日本国に対し戦争を遂行しているすべての連合国の決意により支持され、かつ鼓舞されているものである。


世界の奮起している自由な人民の力に対する、ドイツ国の無益かつ無意義な抵抗の結果は、日本国国民に対する先例を極めて明白に示すものである。現在、日本国に対し集結しつつある力は、抵抗するナチスに対して適用された場合において、全ドイツ国人民の土地、産業及び生活様式を必然的に荒廃に帰させる力に比べて、測り知れない程度に強大なものである。われらの決意に支持されたわれらの軍事力の最高度の使用は、日本国軍隊の不可避かつ完全な壊滅を意味し、また同様に、必然的に日本国本土の完全な破滅を意味する。


無分別な打算により日本帝国を滅亡の淵に陥れた、わがままな軍国主義的助言者により、日本国が引き続き統御されるか、又は理性の経路を日本国がふむべきかを、日本国が決定する時期は、到来した。


われらの条件は、以下のとおりである。
われらは、右の条件より離脱することはない。右に代わる条件は存在しない。われらは、遅延を認めない。


われらは、無責任な軍国主義が世界より駆逐されるまでは、平和、安全及に正義の新秩序が生じえないことを主張することによって、日本国国民を欺瞞し、これによって世界征服をしようとした過誤を犯した者の権力及び勢力は、永久に除去されなければならない。


このような新秩序が建設され、かつ日本国の戦争遂行能力が破砕されたという確証があるまでは、連合国の指定する日本国領域内の諸地点は、われらがここに指示する基本的目的の達成を確保するため、占領される。


カイロ宣言の条項は履行され、また、日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国並びにわれらが決定する諸小島に局限される。


日本国軍隊は、完全に武装を解除された後、各自の家庭に復帰し、平和的かつ生産的な生活を営む機会を与えられる。


われらは、日本人を民族として奴隷化しようとし又は国民として滅亡させようとする意図を有するものではないが、われらの俘虜を虐待した者を含む一切の戦争犯罪人に対しては厳重な処罰を加える。日本国政府は、日本国国民の間における民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障害を除去しなければならない。言論、宗教及び思想の自由並びに基本的人権の尊重は、確立されなければならない。

十一
日本国は、その経済を支持し、かつ公正な実物賠償の取立を可能にするような産業を維持することを許される。ただし、日本国が戦争のために再軍備をすることができるような産業は、この限りではない。この目的のため、原料の入手(その支配とはこれを区別する。)は許可される。日本国は、将来、世界貿易関係への参加を許される。

十二
前記の諸目的が達成され、かつ日本国国民が自由に表明する意思に従って平和的傾向を有し、かつ責任ある政府が樹立されたときには、連合国の占領軍は、直ちに日本国より撤収する。

十三
われらは、日本国政府が直ちに全日本国軍隊の無条件降伏を宣言し、かつこの行動における同政府の誠意について適当かつ充分な保障を提供することを同政府に対し要求する。これ以外の日本国の選択には、迅速かつ完全な壊滅があるだけである。

3.5大改革指令
1945年8月15日の午後、鈴木貫太郎首相が辞表を出し、その後の首相として、天皇は、東久邇宮稔彦に組閣を命じました。8月17日、はじめての皇族内閣である東久邇内閣が成立しました。この内閣の特徴は、旧支配勢力のうち軍部を切り捨て、戦時体制から戦前の体制に戻すことを柱にして、占領政策に応対しようとしたものでした。1945年8月28日、アメリカ占領軍の先遣隊が厚木飛行場に到着しました。8月30日には、連合軍最高司令官マッカーサーが厚木におりたちました。その日に横浜にアメリカ太平洋陸軍総司令部(GHQ・AFPAC)が設置され、日本政府も横浜に、横浜終戦連絡委員会を置いて、GHQとの交渉にあたりました。9月2日には、東京湾上のアメリカ戦艦ミズーリ号上にて、降伏調印が行われ、日本の降伏が正式に確定をしました。結果、日本は全土が占領下に置かれました。その後、GHQは、東京へ進駐をし、9月8日には、第八軍第一騎兵師団の主力部隊が東京に入り、17日には、マッカーサーもアメリカ大使館に入りました。そして、皇居の前の第一生命ビルを接収し、ここに連合国最高司令官総司令部(GHQ・SCAP)を設置して、10月2日、正式に発足しました。

アメリカ政府は、当初はアメリカ軍による直接統治を考えていましたが、天皇制を利用した方が、統治しやすいとの判断から、天皇および日本政府を通じて権限を行使するという間接統治に方針を変更しました。この方針を受けて、アメリカ政府は、「現存の政治形態を利用するとしても、これを支持するものではない」という文を明記した、「降伏後における米国の初期の対日方針」を8月28日、マッカーサーに内示しました。

アメリカの対日占領政策の基本的枠組みは、9月22日に公表をされた、「降伏後における米国の初期対日方針」ならびに、11月3日に統合参謀本部(JCS)からマッカーサーに正式指令をされた、「日本占領及び管理のための連合国最高司令官に対する降伏後における初期の基本的指令」によります。その内容は、1.日本国が再び米国の脅威となり、または、世界の平和および安全の脅威とならざることを確実にすること。2.他国の権利を尊重し国際連合憲章の理想と原則に示されたる米国の目的を支持すべき平和的かつ責任ある政府を究極において樹立することとなっていました。

1945年10月9日には、総辞職をした東久邇宮内閣に代わり、幣原内閣が発足しました。10月11日には、幣原首相は、マッカーサーを訪問し、憲法改正を含めた5つの改革勧告を受けました。その勧告は、@婦人参政権の付与、A労働組合結成の奨励、B教育の自由主義化、C秘密警察の廃止と人権保護の司法制度の確立、D経済機構の民主化と独占的産業支配の是正でした。

4.政党・民間、GHQの憲法草案
GHQは、日本側での自主的な憲法改正を期待していましたが、東久邇・幣原両内閣とも憲法改正に対しては消極的であったため、1945年10月4日、マッカーサーは、訪問をしてきた国務相近衛文麿に対して、「憲法は改正を要する、改正して自由主義的要素を十分取り入れなければならない」と言い、憲法改正に取り組むことを示唆しました。

この示唆に応対し、GHQ側はアメリカ政府が考えている方向性を確認し、日本側は、まず10月11日の段階では、国務相近衛の発案のもと、内大臣御用掛によって、京都大学教授の佐々木惣一の協力を得て、憲法改正案の取りまとめ作業に着手しました。一方、同年同日の10月11日に首相に就任をした幣原首相は、大日本国憲法を民主的に運用をすればよいと憲法改正に対しては消極的でしたが、近衛氏らが先行して改正作業に着手したこともあり、改正は政府の手でやらなくてはいけないという気持ちから、10月13日急遽、松本国務大臣を委員長とする憲法問題調査委員会の設置を決めました。

その後、近衛の戦争責任を問われ、GHQは彼との関係を断つが、近衛はその後も改正案を作り続け、11月22日、改正の要点を9項目列挙した近衛案を天皇に上奏しました。その内容は、明治憲法の基本構造を残しながらもアメリカの意向を強く反映したものとなっていました。また、佐々木も全百ヶ条からなる改正案を11月24日に天皇に進講しました。佐々木案は、明治憲法にない生存権の規定などがもられてはいたが、天皇に関しては、明治憲法の規定をそのまま残したものとなっており、近衛案よりもはるかに明治憲法に近い内容でした。内大臣府の廃止や近衛の死によって、近衛に関連する憲法改正の動きはここで終焉し、この後の改正案に対する主導権は、政府の憲法問題調査委員会にうつります。

憲法問題調査委員会では、12月8日に憲法改正の方向を第89帝国議会衆議院予算委員会でしめしました。これが、「松本四原則」と呼ばれているものです。@天皇が統治権を総攬するという大原則は変更しない、A議会の議決事項を拡充し、大権事項を制限する、B国務大臣の責任を国務全般にわたるものとし、議会に対して責任を持つものとする、C人民の自由と権利の保護を強化する。という内容でした。

こうした憲法改正の動きに呼応して、戦後復活した政党や民間グループが独自の憲法改正案を発表しました。最初に独自の憲法改正案を発表したのは、1945年11月11日に発表した日本共産党でした。内容は、天皇制廃止、人民主権などを柱とする7項目の新憲法の骨子でした。つづいて、日本自由党が、1946年1月14日、「憲法改正要綱」を1946年2月14日には、日本進歩党が、「憲法改正案」を発表しました。内容的には、両党の案とも明治憲法を維持をし、天皇の統治権は変更しないで、議会と内閣の責任を強化するという内容でした。また民間グループでは、高野岩三郎、鈴木安蔵らを中心とする憲法研究会が1945年12月26日に、「憲法草案要綱」を発表しました。内容は、天皇制は残すが、主権は国民にあり、天皇は国家的な儀礼を司るとするものでした。メンバーの高野は、この案をさらに進めた大統領を元首とする共和制を柱とする、「改正憲法私案要綱」を発表しました。

これらの民間等の動きに対して政府も憲法改正作業を急ぐ必要性を感じたようで、憲法問題調査委員会は、改正案の検討に入り、1946年1月には、松本甲案、松本乙案、宮沢甲案の3つが作られました。その頃、GHQでは、日本政府が自ら天皇制を廃止もしくは改革してくれるのであれば、天皇を戦犯から除外し、天皇をその後のアメリカにとっての間接統治システムに組み込めると思っていました。ところが、憲法問題調査委員会から出された改正案は、どれも天皇を君主とする明治憲法の枠組みを堅持したものばかりでした。これでは、国際世論として高まってきていた天皇を戦犯として追求しようとする意見をかわすことができず、主導が極東委員会にうつりアメリカの思う日本統治ができなくなると失望したGHQは、日本政府にポツダム宣言の要求に合致した憲法を作成する力は不足していると判断せざるを得なくなり、独自にGHQ案を作成することに着手します。1946年2月3日にマッカーサーが示したGHQ草案の3原則は、@天皇は、国の元首の地位にあり、国民の基本的意志に応える、A国権の発動たる戦争は放棄する、B封建制度は廃止する、でした。

極東委員会が動き出す前に憲法改正案を作成する必要があったGHQは、きわめて短期間のうちにGHQ草案を作成し、それに並行して日本政府の正式な改正案の作成も急がせました。日本政府は、1946年2月8日に政府案であった松本試案をGHQに提出します。しかし、GHQ側はその内容をほぼ知っていたため、これを拒否し、2月13日に、この案が唯一天皇制を守る案であると言い、GHQ案を日本政府に渡します。日本政府にとって、GHQ草案は、本来の政府案からするとあまりにもかけ離れたものだっただけに衝撃的で、受け入れがたいものでした。2月21日、幣原首相は、マッカーサーと会見し、松本試案の再考を要請しましたが、マッカーサーは、日本側の要求である天皇制の護持と連合国側の要求である日本の完全なる非軍事化の両方を実現するためには、この案しかないと言い、さらにぐずぐずしていると連合国側の最高機関である極東委員会が、天皇の戦犯問題についての追求に介入してくると幣原首相に伝えました。連合軍側の主導が、極東委員会に移ってしまうとアメリカの意向が占領政策に反映されなくなってしまうので、アメリカとしてもこのGHQの案をどうにか日本政府にのませたく思っていたのは言うまでもありません。結果として、日本政府は、2月22日の閣議でGHQ草案を受け入れることを決定します。

政府は、法務局内でGHQ草案を参考にして、日本案の作成作業に入りました。作成された日本案は、前文がなく、天皇条項、人権条項などの重要な点でGHQ草案と大きな違いがありました。この政府案についてのGHQとの折衝は、条項ごとに行われました。憲法の基本的原則である前文は、外務省訳でGHQ案を挿入したり、戦争放棄条項は、GHQ案をそのまま使用し、人権条項についてもその上限を主張する日本政府規定案は採用されなかったりしました。しかし、天皇条項は、議論の対象にはならず、天皇の地位は、「国民至高ノ総意ニ基キ」とされました。こうした、日本政府案は、「憲法改正草案要綱」としてまとめられ、1946年戦後初の総選挙後の4月17日に全文が発表され、6月25日に衆議院に上程される手はずとなりました。

5.憲法審議
1946年4月10日、敗戦後初めての新選挙法による衆議院選挙が行われました。女性が参政権を得た初めての選挙でした。選挙の争点は、インフレ対策、食料問題、憲法改正問題でした。選挙の結果、どの政党も過半数を取ることができませんでした。幣原首相は、自党が第2党になったにも関わらず、政権いすわりを工作し、憲法改正は現政権で実施すると語り、4月17日には、政府の憲法改正草案を公表します。しかし、居座り工作はうまくいかず、4月22日には、幣原内閣は総辞職をしました。その後、1ヶ月の政権空白期を経て、ようやくGHQの支えによって、5月22日、第1次吉田内閣が成立しました。そして、6月20日、第90帝国議会が開会され、憲法草案の審議が始まったのです。

吉田内閣は、憲法草案を枢密院での可決を経て帝国議会に提出をするという明治憲法改正の手続きを踏みました。憲法草案は、1946年6月8日枢密院で可決され、6月20日の第90帝国議会に付議され、衆議院と貴族院で審議をされることとなりました。

議会における憲法審議の一番大きかった問題は、主権の問題と戦争放棄の問題でした。
まず、主権は国民にあるのか天皇にあるのかという問題については、政府はその態度を曖昧なものにしたのに対して、野党やら知識人たちが、GHQ案との英文訳の違いなどを指摘し追求した結果、極東委員会も日本の新憲法の基本原則を決定して、主権が国民にあるということを認めるようGHQに要求しました。これを受けて、GHQも日本国政府に主権が国民にあることを明文化するよう申し入れました。当初、政府は抵抗しましたが、これを受け入れ、前文で、「ここに主権が国民に存することを宣言し」と明記しさらに、第1条において天皇の地位も、「主権の存する日本国民の総意に基く」としました。

また、第9条(政府草案では8条)の問題では、議会における質問に対して、吉田首相は、侵略戦争、自衛戦争を問わず戦争一般を放棄することを明言していましたが、小委員会の審議過程において、2項の冒頭に、「前項の目的を達するため」という文字が挿入修正されました。

6.日本国憲法成立
上記の2つの問題の他、草案の審議過程において、重要な追加・修正がされています。
こうして、議会審議の過程の中で、主権在民の明確化、生存権の規定など重要な追加・修正そして、細かな字句まで含めると80ヶ所以上の修正を行いました。衆議院では、8月24日に修正可決され、貴族院でも10月6日に修正可決されました。その結果、1946年10月7日に憲法草案は成立し、11月3日公布、翌1947年5月3日施行されました。

7.日本国憲法の特徴
このような過程を経て、日本国憲法は制定されました。
そしてその特徴は、1.主権在民、2.平和主義、3.基本的人権という3本柱と共に、4.議会制民主主義、5.地方自治という5つの原則を柱としています。新憲法が制定されたことによって、ここに明治以来の絶対主義的な体制は終わり、民主主義的な国家として日本が生まれ変わったこととなるわけです。

日本国憲法
昭和21(1946)年11月3日 公布
昭和22(1947)年5月3日 施行

原文は旧字体

公布文
 朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法第七十三条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十一年十一月三日
内閣総理大臣兼外務大臣
吉田 茂
国務大臣
男爵 幣原 喜重郎
司法大臣
木村 篤太郎
内務大臣
大村 清一
文部大臣
田中 耕太郎
農林大臣
和田 博雄
国務大臣
斎藤 隆夫
逓信大臣
一松 定吉
商工大臣
星島 二郎
厚生大臣
河合 良成
国務大臣
上原 悦二郎
運輸大臣
平塚 常次郎
大蔵大臣
石橋 湛山
国務大臣
金森 徳次郎
国務大臣
勝 桂之助
日本国憲法

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法はかかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
第一章 天皇
第一条【天皇の地位・国民主権】
 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第二条【皇位の継承】
 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第三条【天皇の国事行為と内閣の責任】
 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第四条【天皇の権能の限界、天皇の国事行為の委任】

 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。

 天皇は、法律(国事行為の臨時代行に関する法律)の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
第五条【摂政】
 皇室典範の定めるところにより、摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
第六条【天皇の任命権】

 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。

 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第七条【天皇の国事行為】
 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。

 国会を召集すること。

 衆議院を解散すること。

 国会議員の総選挙の施行を公示すること。

 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。

 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。

 栄典を授与すること。

 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。

 外国の大使及び公使を接受すること。

 儀式を行ふこと。
第八条【皇室の財産授受の制限】
 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。
第二章 戦争の放棄
第九条【戦争放棄、軍備及び交戦権の否認】

 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第三章 国民の権利及び義務
第十条【日本国民の要件】
 日本国民たる要件は、法律(国籍法)でこれを定める。
第十一条【基本的人権の享有と性質】
 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第十二条【自由・権利の保持義務、濫用の禁止、利用の責任】
 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第十三条【個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重】
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第十四条【法の下の平等、貴族制度の否認、栄典の限界】

 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受けるものの一代に限り、その効力を有する。
第十五条【公務員の選定罷免権、公務員の性質、普通選挙と秘密投票の保障】

 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。

 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
第十六条【請願権】
 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
第十七条【国及び公共団体の賠償責任】
 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律(国家賠償法)の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
第十八条【奴隷的拘束及び苦役からの自由】
 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
第十九条【思想及び良心の自由】
 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第二十条【信教の自由、国の宗教活動の禁止】

 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
第二十一条【集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密】

 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第二十二条【居住・移転・職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由】

 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
第二十三条【学問の自由】
 学問の自由は、これを保障する。
第二十四条【家族生活における個人の尊厳と両性の平等】

 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない。
第二十五条【生存権、国の生存権保障義務】

 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
第二十六条【教育を受ける権利、教育の義務、義務教育の無償】

 すべて国民は、法律(教育基本法第三条第二項)の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

 すべて国民は、法律(教育基本法第四条)の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
第二十七条【労働の権利・義務、労働条件の基準、児童酷使の禁止】

 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律(労働基準法)でこれを定める。

 児童は、これを酷使してはならない。
第二十八条【労働者の団結権・団体交渉権その他団体行動権】
 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
第二十九条【財産権の保障】

 財産権は、これを侵してはならない。

 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律(民法第一編)でこれを定める。

 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
第三十条【納税の義務】
 国民は、法律(憲法第八十四条)の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
第三十一条【法定手続の保障】
 何人も、法律(刑事訴訟法等)の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第三十二条【裁判を受ける権利】
 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第三十三条【逮捕に対する保障】
 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第三十四条【抑留・拘禁に対する保障】
 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
第三十五条【住居侵入・捜索・押収に対する保障】

 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
第三十六条【拷問及び残虐な刑罰の禁止】
 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁止する。
第三十七条【刑事被告人の諸権利】

 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。

 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。

 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
第三十八条【不利益な供述の強要禁止、自白の証拠能力】

 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。

 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。

 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第三十九条【刑罰法規の不遡及、二重刑罰の禁止】
 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
第四十条【刑事保障】
 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律(刑事補償法)の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
第四章 国会
第四十一条【国会の地位、立法権】
 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
第四十二条【両院制】
 国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
第四十三条【両議院の組織】

 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

 両議院の議員の定数は、法律(公職選挙法第四条)でこれを定める。
第四十四条【議員及び選挙人の資格】
 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律(公職選挙法第二章)でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。
第四十五条【衆議院議員の任期】
 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
第四十六条【参議院議員の任期】
 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに、議員の半数を改選する。
第四十七条【選挙に関する事項の法定】
 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律(公職選挙法)でこれを定める。
第四十八条【両議院議員兼職禁止】
 何人も、同時に両議院の議員たることはできない。
第四十九条【議員の歳費】
 両議院の議員は、法律(国会法第三十五条)の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。
第五十条【議員の不逮捕特権】
 両議院の議員は、法律(国会法第三十三条)の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。
第五十一条【議員の発言・票決の無責任】
 両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。
第五十二条【常会】
 国会の常会は、毎年一回これを召集する。
第五十三条【臨時会】
 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
第五十四条【衆議院の解散、特別会、参議院の緊急集会】

 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。

 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。

 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。
第五十五条【議員の資格争訟】
 両議院は各〃その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
第五十六条【定足数・票決】

 両議院は、各〃その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。

 両議員の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
第五十七条【会議の公開、秘密会】

 両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。

 両議院は、各〃その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。

 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。
第五十八条【役員の選任、議院規則、懲罰】

 両議院は、各〃その議長その他の役員を選任する。

 両議院は、各〃その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
第五十九条【法律案の議決、衆議院の優越】

 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。

 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。

 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを妨げない。

 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
第六十条【衆議院の予算先議と優越】

 予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。

 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律(国会法第八十五条)の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
第六十一条【条約の国会承認と衆議院の優越】
 条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。
第六十二条【議院の国政調査権】
 両議院は、各〃国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。
第六十三条【国務大臣の議院出席】
 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
第六十四条【弾劾裁判所】

 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。

 弾劾に関する事項は、法律(国会法第十六章)でこれを定める。
第五章 内閣
第六十五条【行政権と内閣】
 行政権は、内閣に属する。
第六十六条【内閣の組織】

 内閣は、法律(内閣法第二条)の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。

 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。

 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。
第六十七条【内閣総理大臣の指名、衆議院の優越】

 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。

 衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律(国会法第八十六条)の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
第六十八条【国務大臣の任免】

 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。

 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。
第六十九条【衆議院の内閣不信任】
 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
第七十条【内閣総理大臣の欠缺(けんけつ)又は総選挙後の総辞職】
 内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。
第七十一条【総辞職後の内閣の職務】
 前二条の場合には、内閣は、新たに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ。
第七十二条【内閣総理大臣の職務】
 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
第七十三条【内閣の事務】
 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。

 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。

 外交関係を処理すること。

 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。

 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。

 予算を作成して国会に提出すること。

 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
第七十四条【法律・政令の署名・連署】
 法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。
第七十五条【国務大臣の訴追】
 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は害されない。
第六章 司法
第七十六条【司法権、裁判所、特別裁判所の禁止、裁判官の独立】

 すべて司法権は、最高裁判所及び法律(裁判所法)の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。

 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
第七十七条【裁判所の規則制定権】

 最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。

 検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。

 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
第七十八条【裁判官の身分保障】
 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。
第七十九条【最高裁判所の構成、最高裁判所の裁判官】

 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。

 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。

 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。

 審査に関する事項は、法律(最高裁判所裁判官国民審査法)でこれを定める。

 最高裁判所の裁判官は、法律(裁判所法第五十条)の定める年齢に達したときに退官する。

 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
第八十条【下級裁判所の裁判官】

 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律(裁判所法第五十条)の定める年齢に達した時には退官する。

 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
第八十一条【法令などの合憲性審査権】
 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
第八十二条【裁判の公開】

 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。
第七章 財政
第八十三条【財政処理の権限】
 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。
第八十四条【課税の要件】
 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
第八十五条【国費支出と国の債務負担】
 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。
第八十六条【予算の作成と国会の議決】
 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
第八十七条【予備費】

 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。

すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を経なければならない。
第八十八条【皇室財産・皇室費用】
 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して、国会の議決を経なければならない。
第八十九条【公の財産の支出利用の制限】
 公金その他の公の財産は、宗教上の組織もしくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
第九十条【決算・会計検査院】

 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。

 会計検査院の組織及び権限は、法律(会計検査院法)でこれを定める。
第九十一条【財政状況の報告】
 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。
第八章 地方自治
第九十二条【地方自治の基本原則】
 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律(地方自治法)でこれを定める。
第九十三条【地方公共団体の議会】

 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。

 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
第九十四条【地方公共団体の権能】
 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
第九十五条【特別法の住民投票】
 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
第九章 改正
第九十六条【憲法改正の手続】

 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
第十章 最高法規
第九十七条【基本的人権の本質】
 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
第九十八条【憲法の最高法規性、条約・国際法規の遵守】

 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
第九十九条【憲法尊重擁護の義務】
 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
第十一章 補則
第百条【施行期日】

 この憲法は、公布の日から起算して六箇月を経過した日から、これを施行する。

 この憲法を施行するために必要な法律の制定、参議院議員の選挙及び国会召集の手続並びにこの憲法を施行するために必要な準備手続は、前項の期日よりも前に、これを行ふことができる。
第百一条【国会に関する経過規定】
 この憲法施行の際、参議院がまだ成立してゐないときは、その成立するまでの間、衆議院は、国会としての権限を行ふ。
第百二条【第一期参議院議員の任期】
 この憲法による第一期の参議院議員のうち、その半数の者の任期は、これを三年とする。その議員は、法律の定めるところにより、これを定める。
第百三条【公務員に関する経過規定】
 この憲法施行の際現に在職する国務大臣、衆議院議員及び裁判官並びにその他の公務員で、その地位に相応する地位がこの憲法で認められてゐる者は、法律で特別の定をした場合を除いては、この憲法施行のため、当然にはその地位を失ふことはない。但し、この憲法によつて、後任者が選挙又は任命されたときは、当然その地位を失ふ。

参考文献等
日本現代史 青木書店
日本史研究 山川出版など