日米安全保障条約

 フィールドワーク関連のレポート作成の中で私が担当する項目において、この項目を最初に手をつけなくてはいけないと思ったのには訳があります。冷戦終了後の21世紀の世界において、世界のいたるところで、帝国と衛星国の関係がクローズアップされています。世界の過去において衛星国であった国々が、自立の道を様々な形で模索し出している中、典型的な帝国と衛星国との関係を保持し続けている日本とアメリカの関係は非常に興味深いものです。この両者の持ちつ持たれつの関係を少しでも理解することは、21世紀の世界において、自主独立への道の一つのヒントになるものだと思ったからです。

【1】日米安全保障条約の背景
 安保条約に関しては、その時代的なものから大きくわけて、4つの時期に分けることができると思います。1期(1951年旧安保条約)、2期(1960年現安保条約)、3期(1978年旧ガイドライン)、4期(1996年新ガイドライン)

(1)各年における日本の状況概況
【1951年】
 1951年は、サンフランシスコで、日本とアメリカなど48ヶ国との間で、講和条約が結ばれました。これによって、日本は、独立を回復したことになりましたが、ソビエトは講和条約には調印せず、中国は講和会議には招かれませんでした。
 50年には、官公庁をはじめとする多くの職場で、共産主義者と思われる者の追放、いわゆるレッド・パージが行われました。と同時に、旧軍人等の追放解除が行われれて、戦前の政治家などが政界に復帰しました。
 50年の朝鮮戦争時には、アメリカ軍を主体とする国連軍が、日本から出動する際、多くの物資とサービスをドルで調達したため、日本は、特需景気で湧きました。その後、経済的にも国際社会に復帰をし、スエズ危機などにも助けられ、日本の経済は奇跡的な成長を続け、55年には、戦前の最高水準を突破して、56年には、「もはや戦後ではない」とまで言われました。

【1960年】
 政府与党は、新日米安全保障条約を衆議院で単独強行議決をしました。院外で反対運動が盛り上がりました。6月19日の新日米安保条約自然発効時には、33万人の人が国会を包囲したと言われています。その後発足した池田内閣は、「高度成長・所得倍増」をスローガンにして、政策をすすめました。
 中東における油田開発がすすみ、安い原油が日本に輸入されるようになり、日本の石炭は価格的に対抗できなくなり衰退していきました。また、50年代後半には、白黒テレビ・電気洗濯機・電気冷蔵庫が三種の神器、60年代後半には、カー・クーラー・カラーテレビが3Cなどと呼ばれ、日常生活に消費革命が起きました。
 一方、急速な工業化は、生産面においては大きな技術革新につながりましたが、公害などの対策は後手に回り、多くの被害を出しました。

【1978年】
 1972年に沖縄が、日本へ返還されました。
 1974年には、かねてからのインフレに対して、さらに物価が急騰し、高度成長政策の破綻が明確となり、戦後初のマイナス経済成長となりました。その後、ロッキード事件などが明るみに出て、保守政党の体質改善が迫られました。同時に、78年以降は、革新系首長の後退も進みました。また、70年代には、登校拒否、校内暴力、いじめなどのいわゆる、「教育の荒廃」も叫ばれました。76年には、戦後生まれが総人口の半数を越えました。

【1996年】
 1989年には、冷戦が終焉しました。日本では、91年ごろよりバブル経済が崩壊し、一気にそのつけが回ってきます。92年には、PKO部隊の自衛隊第1陣が湾岸へ向け出発します。93年には、自民党の長期政権に一時幕が下りるも、96年から開始される小選挙区比例代表並立制の実施により息を吹き返します。住専の不良債権処理問題、薬害エイズ問題、沖縄米軍基地の整理・縮小問題、高級官僚の贈収賄事件などが日本を揺るがしました。

(2)戦後のアメリカの主な動き
[1947年]
トルーマンドクトリンによる対ソ封じ込め政策、マーシャルプランの発表で、「冷戦」を開始する。
[1948年]
米州機構(OAS)、49年のNATO結成などで、反共体制を整える。
[1950年]
ヒステリックな「赤狩り」が吹き荒れる。国連軍の名のもとに朝鮮戦争へ大軍を派遣する。
[1951年]
対日占領方針を転換し、サンフランシスコ平和条約ならびに日米安全保障条約を結び、日本を反共体制の一環に組み込む。
[1953年頃]
ソビエトのロケット開発などに遅れをとったため、軍と大企業共同の軍産複合体の発展をすすめる。テレビ・ロックンロールなどのエンターテイメントを利用して、「パックス・アメリカーナ」の絶頂期を現出させた。
[1955年]
ジュネーブ4巨頭会談など、対共産圏に対する雪どけ政策がすすめられるも50年代後半には、パックス・アメリカーナに翳りが出てくると巻き返し政策がとられつつあった。
[1961年頃]
ケネディ大統領のもと、ニューフロンティア政策がとられる。ベルリンの壁が築かれる。
[1962年]
キューバ危機。
[1963年]
キング牧師のもと、人種差別撤廃を求む約25万人のワシントン大行進が行われる。部分的核実験停止条約が成立するもフランス、中国の反発を招き、核の多極化がすすむ。
[1964年]
公民権法が成立するが、黒人差別が強まり、黒人解放運動が高揚する中、68年、キング牧師暗殺される。
[1965年]
ベトナム戦争直接介入(ドミノ理論)。
[1971年]
ベトナム戦費の重圧から、金−ドル交換停止によるドル危機が起きる。
[1973年]
各国が通貨を変動為替相場制に移行し、アメリカの経済的優位が一気に低下する。ニクソン−ドクトリンで、過剰な対外介入を整理する方向に動く。結果として、ニクソン大統領訪中、ソ連と戦略兵器制限交渉、ベトナム和平協定・ベトナム撤退。
[1974年頃]
第1次石油危機により、スタグフレーションに悩む。日本やEUとの経済調整をはかる。
[1977年]
貿易収支が空前の赤字になる。
[1979年]
イラン革命起きる。
[1985年]
「強いアメリカ」を掲げ、軍備拡大のため、財政と貿易収支の赤字が続き、債務国となる。
[1987年]
中距離核戦力全廃条約に調印する。
[1989年]
財政と貿易収支の赤字が続き、経済は停滞する。大都市を中心にホームレスの人々が急増する。東西冷戦が終結する。
[1991年]
中東湾岸戦争へ多国籍軍としてアメリカ軍を派遣する。1993年頃 外債に依存した形で、財政赤字の削減をめざす。経済的には、好況を呈しているので、強気の外交を展開している。

【2】各条文
(1)旧安保条約
(旧)日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約
 昭和27(1952)年4月28日 条約第4号
 日本国は、本日連合国との平和条約に署名した。日本国は武装を解除されているので、平和条約の効力発生の時において固有の自衛権を行使する有効な手段をもたない。無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていないので、前記の状態にある日本国には危険がある。よって、日本国は、平和条約が日本国とアメリカ合衆国の間に効力を生ずるのと同時に効力を生ずべきアメリカ合衆国との安全保障条約を希望する。平和条約は、日本国が主権国として集団的安全保障取極を締結する権利を有することを承認し、さらに、国際連合憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有することを承認している。 これらの権利の行使として、日本国は、その防衛のための暫定措置として、日本国に対する武力攻撃を阻止するため日本国内及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する。
 アメリカ合衆国は、平和と安全のために、現在若干の自国軍隊を日本国内及びその附近に維持する意思がある。但し、アメリカ合衆国は、日本国が、攻撃的な脅威となり又は国際連合憲章の目的及び原則に従って平和と安全を増進すること以外に用いられうべき軍備をもつことを常に避けつつ、直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。 よって両国は次の通り協定した。

第1条
 平和条約及びこの条約の効力発生と同時に、アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍を日本国内及びその附近に配備する権利を、日本国は、許与し、アメリカ合衆国は、これを受諾する。この軍隊は、極東における国際の平和と安全の維持に寄与し、並びに、一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起こされた日本国における大規模の内乱及び騒じょうを鎮圧するため日本国政府の明示の要請に応じて与えられる援助を含めて、外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用することができる。

第2条
 第1条に掲げる権利が行使される間は、アメリカ合衆国の事前の同意なくして、基地、基地における若しくは基地に関する権利、権力若しくは権能、駐兵若しくは演習の権利又は陸軍、空軍若しくは海軍の通過の権利を第三国に許与しない。

第3条
 アメリカ合衆国の軍隊の日本国内及びその附近における配備を規律する条件は、両政府間の行政協定で決定する。

第4条
 この条約は、国際連合又はその他による日本区域における国際の平和と安全の維持のため充分な定をする国際連合の措置又はこれに代る個別的若しくは集団的の安全保障措置が効力を生じたと日本国及びアメリカ合衆国の政府が認めた時はいつでも効力を失うものとする。

第5条
 この条約は、日本国及びアメリカ合衆国によつて批准されなければならない。この条約は、批准書が両国によつてワシントンで交換された時に効力を生ずる。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。

 1951年9月8日にサンフランシスコ市で、日本語及び英語により、本書二通を作成した。
                       日本国のために
                       吉田茂
                       アメリカ合衆国のために
                       ディーン・アチソン
                       ジョーン・フォスター・ダレス
                       アレキサンダー・ワイリー
                       スタイルズ・ブリッジス

(2)現安保条約
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約
Treaty of mutual cooperation and security between Japan and the United States of America
(日米安全保障条約・安保条約)
1960(昭和35)年1月19日 ワシントンで署名
1960年6月19日 国会承認
1960年6月23日 批准書交換、効力発生
1960(昭和35)年6月23日 条約第6号

 日本国及びアメリカ合衆国は、両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的な安定及び福祉の条件を助長することを希望し、国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、両国が国際連合憲章に定める個別的または集団的自衛の固有の権利を有しているを確認し、両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、 相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、 よって、次のとおり協定する。

第1条(平和の維持のための努力)
 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武器の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
 締約国は、他の平和愛好国と共同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。

第2条(経済的協力の促進)
 締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。

第3条(自衛力の維持発展)
 締約国は、個別的に及び相互に協力して、持続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。

第4条(臨時協議)
 締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。

第5条(共同防衛)
 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
 前記の武力攻撃及びその結果として執った全ての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従って直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し維持するために必要な措置を執ったときは、終止しなければならない。

第6条(基地の許与)
 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持の寄与するため、アメリカ合州国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合州国軍隊の地位は、1952年2月28日に東京で署名された日本国とアメリカ合州国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。

第7条(国連憲章との関係)
 この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響を及ぼすものではなく、また、及ぼすものとして解釈してはならない。

第8条(批准)
 この条約は、日本国及びアメリカ合州国により各自の憲法上の手続に従って批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。

第9条(旧条約の失効)
 1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合州国との間の安全保障条約は、この条約の効力発生のときに効力を失う。

第10条(条約の終了)
 この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合州国政府が認めるときまで効力を有する。
 もっとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意志を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行われた後一年で終了する。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。
1960年1月19日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。
                            (両国全権委員氏名省略)

交換公文
(条約第6条の実施に関する交換公文)
(日本側往簡)
 書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、本日署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に言及し、次のことが同条約第6条の実施に関する日本国政府の了解であることを閣下に通報する光栄を有します。
 合衆国軍隊の日本国への配置における重要な変更、同軍隊の装備における重要な変更並びに日本国から行なわれる戦闘作戦行動(前記の条約第5条の規定に基づいて行なわれるものを除く。)のための基地としての日本国内の施設及び区域の使用は、日本国政府との事前の協議の主題とする。
 本大臣は、閣下が、前記のことがアメリカ合衆国政府の了解でもあることを貴国政府に代わつて確認されれば幸いであります。
 本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
                      1960年1月19日にワシントンで
                      岸 信介

アメリカ合衆国国務長官
クリスチャン・A・ハーター閣下

(合衆国側返簡)
 書簡をもつて啓上いたします。本長官は、本日付けの閣下の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。
(日本側書簡省略)
 本長官は、前記のことがアメリカ合衆国政府の了解でもあることを本国政府に代わって確認する光栄を有します。 本長官は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
                     1960年1月19日
                     アメリカ合衆国国務長官
                     クリスチャン・A・ハーター

日本国総理大臣 岸信介閣下

(3)旧ガイドライン
日米防衛協力のための指針(ガイドライン 78年版)全文
◇日米安全保障協議委員会が了承した防衛協力小委員会の報告
(1978年11月27日)

 昭和51年7月8日に開催された日米安全保障協議委員会で設置された防衛協力小委員会は、今日まで8回の会合を行った。防衛協力小委員会は、日米安全保障協議委員会によって付託された任務を遂行するにあたり、次の前提条件及び研究・協議事項に合意した。
【前提条件】
1.
事前協議に関する諸問題、日本の憲法上の制約に関する諸問題及び非核三原則は、研究・協議の対象としない。

2.
研究・協議の結論は、日米安全保障協議委員会に報告し、その取り扱いは、日米両国政府のそれぞれの判断に委ねられるものとする。この結論は、両国政府の立法、予算ないし行政上の措置を義務づけるものではない。
【研究・協議事項】
1.日本に武力攻撃がなされた場合又はそのおそれのある場合の諸問題
2.1.以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合の諸問題
【その他(共同演習・訓練等)】
 防衛協力小委員会は、研究・協議を進めるに当たり、日本に対する武力攻撃に際しての日米安保条約に基づく日米間の防衛協力のあり方についての日本政府の基本的な構想を聴取し、これを研究・協議の基礎として作業を進めることとした。防衛協力小委員会は、小委員会における研究・協議の進捗を図るため、下部機構として、作戦、情報及び後方支援の3部会を設置した。これらの部会は、専門的な立場から研究・協議を行った。更に、防衛協力小委員会は、その任務内にあるその他の日米間の協力に関する諸問題についても研究・協議を行った。
 防衛協力小委員会がここに日米安全保障協議委員会の了承を得るため報告する「日米防衛協力のための指針」は、以上のような防衛協力小委員会の結果である。

【日米防衛協力のための指針】(旧ガイドライン)
(1978年11月27日閣議了承)
 この指針は、日米安保条約及びその関連取極に基づいて日米両国が有している権利及び義務に何ら影響を与えるものと解されてはならない。
 この指針が記述する米国に対する日本の便宜供与及び支援の実施は、日本の関係法令に従うことが了解される。

【侵略を未然に防止するための態勢 】
1.
日本は、その防衛政策として自衛のため必要な範囲内において適切な規模の防衛力を保有するとともに、その最も効率的な運用を確保するための態勢を整備・維持し、また、地位協定に従い、米軍による在日施設・区域の安定的かつ効果的な使用を確保する。また、米国は、核抑止力を保持するとともに、即応部隊を前方展開し、及び来援し得るその他の兵力を保持する。

2.
日米両国は日本に対する武力攻撃がなされた場合に共同対処行動を円滑に実施し得るよう、作戦、情報、後方支援等の分野における自衛隊と米軍との間の協力態勢の整備に努める。 このため、
@
自衛隊及び米軍は、日本防衛のための整合のとれた作戦を円滑かつ効果的に共同して実施するため、共同作戦計画についての研究を行う。また、必要な共同演習及び共同訓練を適時実施する。
更に、自衛隊及び米軍は、作戦を円滑に共同して実施するため作戦上必要と認める共通の実施要領をあらかじめ研究し、準備しておく。この実施要領には、作戦、情報及び後方支援に関する事項が含まれる。また、通信電子活動は指揮及び連絡の実施に不可欠であるので、自衛隊及び米軍は、通信電子活動に関しても相互に必要な事項をあらかじめ定めておく。

A
自衛隊及び米軍は、日本防衛に必要な情報を作成し、交換する。自衛隊及び米軍は、情報の交換を円滑に実施するため、交換する情報の種類並びに交換の任務に当たる自衛隊及び米軍の部隊を調整して定めておく。また、自衛隊及び米軍は、相互間の通信連絡体系の整備等所要の措置を講ずることにより緊密な情報協力態勢の充実を図る。

B
自衛隊及び米軍は、日米両国がそれぞれ自国の自衛隊又は軍の後方支援について責任を有するとの基本原則を踏まえつつ、適時、適切に相互支援を実施し得るよう、補給、輸送、整備、施設等の各機能について、あらかじめ緊密に相互に調整し又は研究を行う。この相互支援に必要な細目は、共同の研究及び計画作業を通じて明らかにされる。特に、自衛隊及び米軍は、予想される不足補給品目、数量、補完の優先順位、緊急取得要領等についてあらかじめ調整しておくとともに、自衛隊の基地及び米軍の施設・区域の経済的かつ効率的な利用のあり方について研究する。

【日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等】
1.日本に対する武力攻撃がなされるおそれのある場合
 日米両国は、連絡を一層密にして、それぞれ所要の措置を取るとともに、情勢の変化に応じて必要と認めるときは、自衛隊と米軍との間の調整機関の開設を含め、整合のとれた共同対処行動を確保するために必要な準備を行う。 自衛隊及び米軍は、それぞれが実施する作戦準備に関し、日米両国が整合のとれた共通の準備段階を選択し自衛隊及び米軍がそれぞれ効果的な作戦準備を協力して行うことを確保することができるよう、共通の基準をあらかじめ定めておく。 この共通の基準は、情報活動、部隊の行動準備、移動、後方支援その他の作戦準備に係る事項に関し、部隊の警戒監視のための態勢の強化から部隊の戦闘準備の態勢の最大限の強化にいたるまでの準備段階を区分して示す。自衛隊及び米軍は、それぞれ、日米両国政府の合意によって選択された準備段階に従い必要と認める作戦準備を実施する。

2.日本に対する武力攻撃がなされた場合
@
日本は、原則として、限定的かつ小規模な侵略を独力で排除する。侵略の規模、態様等により独力で排除することが困難な場合には、米国の協力をまって、これを排除する。

A
自衛隊及び米軍が日本防衛のための作戦を共同して実施する場合には、双方は、相互に緊密な調整を図り、それぞれの防衛力を適時かつ効果的に運用する。
(作戦構想)
 自衛隊は主として日本の領域及びその周辺空域において防勢作戦を行い、米軍は自衛隊の行う作戦を支援する。米軍は、また自衛隊の能力の及ばない機能を補完するための作戦を実施する。 自衛隊及び米軍は、陸上作戦、海上作戦及び航空作戦を次のとおり共同して実施する。

(a) 陸上作戦
 陸上自衛隊及び米陸上部隊は、日本防衛のための陸上作戦を共同して実施する。
 陸上自衛隊は、阻止、持久及び反撃のための作戦を実施する。
米陸上部隊は、必要に応じ来援し、反撃のための作戦を中心に陸上自衛隊と共同して作戦を実施する。

(b) 海上作戦
 海上自衛隊及び米海軍は、周辺海域の防衛のための海上作戦及び海上交通の保護のための海上作戦を共同して実施する。
 海上自衛隊は、日本の重要な港湾及び海峡の防備のための作戦並びに周辺海域における対潜作戦、船舶の保護のための作戦その他の作戦を主体となって実施する。
 米海軍部隊は、海上自衛隊の行う作戦を支援し、及び機動打撃力を有する任務部隊の使用を伴うような作戦を含め、侵攻兵力を撃退するための作戦を実施する。

(c) 航空作戦
 航空自衛隊及び米空軍は、日本防衛のための航空作戦を共同して実施する。
 航空自衛隊は、防空、着上陸侵攻阻止、対地支援、航空偵察、航空輸送等の航空作戦を実施する。
 米空軍部隊は、航空自衛隊の行う作戦を支援し、及び航空打撃力を有する航空部隊の使用を伴うような作戦を含め、侵攻兵力を撃退するための作戦を実施する。

(d) 陸上作戦、海上作戦及び航空作戦を実施するに当たり
 自衛隊及び米軍は、情報、後方支援等の作戦に係る諸活動について必要な支援を相互に与える。

【指揮及び調整】
 自衛隊及び米軍は、緊密な協力の下にそれぞれの指揮系統に従って行動する。自衛隊及び米軍は、整合のとれた作戦を共同して効果的に実施することができるよう、あらかじめ調整された作戦運用上の手続きに従って行動する。

【調整機関】
 自衛隊及び米軍は、効果的な作戦を共同して実施するため、調整機関を通じ、作戦、情報及び後方支援について相互に緊密な調整を図る。

【情報活動】
 自衛隊及び米軍は、それぞれの情報組織を運営しつつ、効果的な作戦を共同して遂行することに資するため緊密に協力して情報活動を実施する。このため、自衛隊及び米軍は、情報の要求、収集、処理及び配布の各段階につき情報活動を緊密に調整する。自衛隊及び米軍は、保全に関しそれぞれ責任を負う。

【後方支援活動】
 自衛隊及び米軍は、日米両国間の関係取極に従い、効果的かつ適切な後方支援活動を緊密に協力して実施する。 このため、日本及び米国は、後方支援の各機能の効率性を向上し及びそれぞれの能力不足を軽減するよう、相互支援活動を次のとおり実施する。
(a)補給
 米国は、米国製の装備品等の補給品の取得を支援し、日本は、日本国内における補給品の取得を支援する。

(b)輸送
 日本及び米国は、米国から日本への補給品の航空輸送及び海上輸送を含む輸送活動を緊密に協力して実施する。

(c)整備
 米国は、米国製の品目の整備であって日本の整備能力が及ばないものを支援し、日本は、日本国内において米軍の装備品の整備を支援する。整備支援には、必要な整備要員の技術指導を含める。関連活動として、日本は、日本国内におけるサルベージ及び回収に関する米軍の需要についても支援を与える。

(d)施設
 米軍は、必要なときは、日米安保条約及びその関連取極に従って新たな施設・区域を提供される。また、効果的かつ経済的な使用を向上するため自衛隊の基地及び米軍の施設・区域の共同使用を考慮することが必要な場合には、自衛隊及び米軍は、同条約及び取極に従って、共同使用を実施する。

【日本以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合の日米間の協力】 日米両政府は、情勢の変化に応じ随時協議する。
 日本以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合に日本が米軍に対して行う便宜供与のあり方は、日米安保条約、その関連取極、その他の日米間の関係取極及び日本の関係法令によって規律される。日米両政府は、日本が上記の法的枠組の範囲内において米軍に対して行う便宜供与のあり方について、あらかじめ相互に研究を行う。このような研究には、米軍による自衛隊の基地の共同使用その他の便宜供与のあり方に関する研究が含まれる。

(4)新ガイドライン
                            日米安全保障協議委員会
                            於ニュー・ヨーク
                            1997年9月23日

 日米同盟関係は、日本の安全の確保にとって必要不可欠なものであり、アジア太平洋地域における平和と安定を維持するために引き続き重要な役割を果たしている。日米同盟関係は、この地域における米国の肯定的な関与を促進するものである。この同盟関係は、自由、民主主義および人権の尊重等の共通の価値観を反映するとともに、より安定した国際的な安全保障環境の構築のための努力をはじめとする広範な日米間の協力の政治的な基礎となっている。このような努力が成果を上げることは、この地域のすべての者の利益となる。

 冷戦の終結にもかかわらず、アジア太平洋地域には潜在的な不安定性と不確実性が依然として存在しており、この地域における平和と安定の維持は、日本の安全のために一層重要になっている。1996年4月に橋本龍太郎首相とクリントン大統領により発表された「日米安全保障共同宣言」は、日米安全保障関係が、共通の安全保障上の目標を達成するとともに、21世紀に向けてアジア太平洋地域において安定的で繁栄した情勢を維持するための基礎であり続けることを再確認した。首相と大統領は、日本と米国の間に既に構築されている緊密な協力関係を増進するため、78年の指針の見直しを開始することで意見が一致した。冷戦後の情勢の変化にかんがみ、指針の下での成果を基礎として、以下の分野について検討を行ってきた。

・「平素から行う協力」
・「日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等」
・「日本周辺地域における事態で日本の平和と安全に重要な影響を与える場合(周辺事態) の協力」

 これらの検討は、平素からのおよび緊急事態における日米両国の役割ならびに協力および調整の在り方について、一般的な大枠および方向性を示すことを目的としたものである。 見直しは、特定の地域における事態を議論して行ったものではない。

 防衛協力小委員会(SDC)は、新たな「日米防衛協力のための指針」を作成し、これを日米安全保障協議委員会に報告した。日米安全保障協議委員会は、以下に示す指針を了承し、公表した。この指針は、78年の指針に代わるものである。

I 指針の目的
 この指針の目的は、平素からならびに日本に対する武力攻撃および周辺事態に際してより効果的かつ信頼性のある日米協力を行うための、堅固な基礎を構築することである。指針は、平素からのおよび緊急事態における日米両国の役割ならびに協力および調整の在り方について、一般的な大枠および方向性を示すものである。

II 基本的な前提および考え方
1.
日米安全保障条約およびその関連取り決めに基づく権利および義務ならびに日米同盟関係の基本的な枠組みは、変更されない。

2.
日本のすべての行為は、日本の憲法上の制約の範囲内において、専守防衛、非核三原則等の日本の基本的な方針に従って行われる。

3.
日米両国のすべての行為は、紛争の平和的解決および主権平等を含む国際法の基本原則ならびに国連憲章をはじめとする関連する国際約束に合致するものである。

4.
指針およびその下で行われる取り組みは、いずれの政府にも、立法上、予算上または行政上の措置をとることを義務づけるものではない。日米両国政府が各々の判断に従い、この努力の結果を各々の具体的な政策や措置に適切な形で反映することが期待される。日本のすべての行為は、その時々において適用のある国内法令に従う。

III 平素から行う協力

 日米両国政府は、現在の日米安全保障体制を堅持し、各々所要の防衛態勢の維持に努める。日本は「防衛計画の大綱」にのっとり、自衛のために必要な範囲内で防衛力を保持する。米国は、そのコミットメントを達成するため、核抑止力を保持するとともに、アジア太平洋地域における前方展開兵力を維持し、来援し得る他の兵力を保持する。日米両国政府は各々の政策を基礎としつつ、日本の防衛、安定した国際的な安全保障環境の構築のため、平素から密接な協力を維持する。日米両国政府は、平素から様々な分野での協力を充実する。この協力には、日米物品・役務相互提供協定および日米相互防衛援助協定ならびにこれらの関連取り決めに基づく相互支援活動が含まれる。

1.情報交換および政策協議
日米両国政府は、双方が関心を有する国際情勢の情報、意見の交換を強化し、防衛政策および軍事態勢について緊密な協議を継続する。情報交換・政策協議は、日米安全保障協議委員会および日米安全保障高級事務レベル協議(SSC)を含むあらゆる機会をとらえ、できる限り広範なレベル、分野において行われる。

2.安全保障面での種々の協力
 安全保障面での地域的なおよび地球的規模の諸活動を促進するための日米協力は、より安定した国際的な安全保障環境の構築に寄与する。この地域の安全保障対話・防衛交流および国際的な軍備管理・軍縮の意義と重要性を認識し、これらの活動を促進し、必要に応じて協力する。
 国連平和維持活動または人道的な国際救援活動に参加する場合には、日米両国政府は必要に応じて相互支援のために密接に協力する。輸送、衛生、情報交換、教育訓練等の分野における協力の要領を準備する。大規模災害の発生を受け、日米いずれかの政府、両国政府が関係政府または国際機関の要請に応じて緊急援助活動を行う場合には、日米両国政府は、必要に応じて密接に協力する。

3.日米共同の取り組み
 日米両国政府は、日本に対する武力攻撃に際しての共同作戦計画についての検討および周辺事態に際しての相互協力計画についての検討を含む共同作業を行う。このような努力は、双方の関係機関の関与を得た包括的なメカニズムにおいて行われ、日米協力の基礎を構築する。
 日米両国政府は、共同作業を検証するとともに、自衛隊、米軍をはじめとする日米両国の公的機関および民間の機関による円滑かつ効果的な対応を可能とするため、共同演習・訓練を強化する。日米両国政府は、緊急事態において関係機関の関与を得て運用される日米間の調整メカニズムを平素から構築しておく。

IV 日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等
 日本に対する武力攻撃に際しての共同対処行動等は、引き続き日米防衛協力の中核的要素である。日本に対する武力攻撃が差し迫っている場合に日米両国政府は、事態の拡大を抑制するための措置をとるとともに、日本の防衛のために必要な準備を行う。日本に対する武力攻撃がなされた場合、日米両国政府は、適切に共同して対処し、極力早期にこれを排除する。

1.日本に対する武力攻撃が差し迫っている場合
 日米両国政府は、情報交換および政策協議を強化するとともに、日米間の調整メカニズムの運用を早期に開始する。日米両国政府は、適切に協力しつつ、合意によって選択された準備段階に従い、整合のとれた対応を確保するために必要な準備を行う。日本は、米軍の来援基盤を構築し、維持する。日米両国政府は、情勢の変化に応じ、情報収集および警戒監視を強化するとともに、日本に対する武力攻撃に発展し得る行為に対応するための準備を行う。
 日米両国政府は、事態の拡大を抑制するため、外交上のものを含むあらゆる努力を払う。なお、日米両国政府は、周辺事態の推移によっては日本に対する武力攻撃が差し迫ったものとなるような場合もあり得ることを念頭に置きつつ、日本の防衛のための準備と周辺事態への対応またそのための準備との間の密接な相互関係に留意する。

2.日本に対する武力攻撃がなされた場合
(1)整合のとれた共同対処行動のための基本的な考え方
(イ)
 日本は、日本に対する武力攻撃に即応して主体的に行動し、極力早期にこれを排除する。その際、米国は、日本に対して適切に協力する。このような日米協力の在り方は、武力攻撃の規模、態様、事態の推移その他の要素により異なるが、これには整合のとれた共同の作戦の実施およびそのための準備、事態の拡大を抑制するための措置、警戒監視ならびに情報交換の協力が含まれ得る。

(ロ)
 自衛隊および米軍が作戦を共同して実施する場合、双方は整合性を確保しつつ、適時かつ適切な形で各々の防衛力を運用する。双方は各々の陸・海・空部隊の効果的な統合運用を行う。自衛隊は、主として日本の領域および周辺海空域において防勢作戦を行い、米軍は、自衛隊の行う作戦を支援する。米軍は、また、自衛隊の能力を補完するための作戦を実施する。

(ハ)
 米国は、兵力を適時に来援させ、日本は、これを促進するための基盤を構築し、維持する。

(2)作戦構想
(イ)日本に対する航空侵攻に対処するための作戦
 自衛隊および米軍は、日本に対する航空侵攻に対処するための作戦を共同して実施する。自衛隊は、防空のための作戦を主体的に実施する。
 米軍は、自衛隊の行う作戦を支援するとともに、打撃力の使用を伴うような作戦を含め、自衛隊の能力を補完するための作戦を実施する。

(ロ)日本周辺海域の防衛および海上交通の保護のための作戦
 自衛隊および米軍は、日本周辺海域の防衛のための作戦および海上交通の保護のための作戦を共同実施する。
 自衛隊は日本の重要な港湾および海峡の防備、日本周辺海域の船舶の保護、その他の作戦を主体的に実施する。
 米軍は、自衛隊の行う作戦を支援するとともに、機動打撃力の使用を伴う作戦を含め、自衛隊の能力を補完する作戦を実施する。

(ハ)日本に対する着上陸侵攻に対処するための作戦
 自衛隊および米軍は、日本に対する着上陸侵攻に対処するための作戦を共同して実施する。自衛隊は、日本に対する着上陸侵攻を阻止し排除するための作戦を主体的に実施する。米軍は、主として自衛隊の能力を補完するための作戦を実施する。その際、米国は、侵攻の規模、態様その他の要素に応じ、極力早期に兵力を来援させ、自衛隊の行う作戦を支援する。

(ニ)その他の脅威への対応
(1)
 自衛隊は、ゲリラ・コマンドウ攻撃等日本領域に軍事力を潜入させて行う不正規型の攻撃を極力早期に阻止し排除するための作戦を主体的に実施する。関係機関と密接に協力し調整するとともに、事態に応じて米軍の適切な支援を得る。

(2)
 自衛隊および米軍は、弾道ミサイル攻撃に対応するために密接に協力し調整する。米軍は、日本に対し必要な情報を提供し、必要に応じ、打撃力を有する部隊の使用を考慮する。

(3)作戦に係る諸活動およびそれに必要な事項
(イ)指揮および調整
 自衛隊および米軍は、緊密な協力の下、各々の指揮系統に従って行動する。自衛隊および米軍は、効果的な作戦を共同して実施するため、役割分担の決定、作戦行動の整合性の確保等についての手続きをあらかじめ定めておく。

(ロ)日米間の調整メカニズム
 日米両国の関係機関の間における必要な調整は、日米間の調整メカニズムを通じて行われる。自衛隊および米軍は、効果的な作戦を共同して実施するため、作戦、情報活動および後方支援について、日米共同調整所の活用を含め、この調整メカニズムを通じて、相互に緊密に調整する。

(ハ)通信電子活動
 日米両国政府は、通信電子能力の効果的な活用を確保するため、相互に支援する。

(ニ)情報活動
 日米両国政府は、効果的な作戦を共同して実施するため、情報活動について協力する。情報の要求、収集、処理および配布の調整が含まれる。共有した情報の保全に関し各々責任を負う。

(ホ)後方支援活動
 自衛隊および米軍は、日米間の適切な取り決めに従い、効率的かつ適切に後方支援活動を実施する。後方支援の効率性を向上させ、かつ各々の能力不足を軽減するよう、中央政府および地方公共団体が有する権限、能力ならびに民間が有する能力を適切に活用し、相互支援活動を実施する。

(1)補給
 米国は、米国製の装備品等の補給品の取得を支援し、日本は、日本国内における補給品の取得を支援する。

(2)輸送
 日米両国政府は、米国から日本への補給品の航空輸送および海上輸送を含む輸送活動で緊密に協力する。

(3)整備
 日本は、日本国内において米軍の装備品の整備を支援し、米国は、米国製の品目の整備で日本の整備能力が及ばないものについて支援を行う。整備の支援には、整備要員の技術指導を含む。

(4)施設
 日本は、必要に応じ、日米安全保障条約および関連取り決めに従って新たな施設・区域を提供する。また、作戦を効果的、効率的に実施するために自衛隊および米軍は、同条約、関連取り決めに従って、自衛隊の施設および米軍の施設・区域の共同使用を実施する。

(5)衛生
 日米両国政府は、衛生の分野で傷病者の治療、後送等の相互支援を行う。
 
V 周辺事態の協力
 周辺事態は、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態である。周辺事態の概念は、地理的なものではなく、事態の性質に着目したものである。日米両国政府は、周辺事態が発生することのないよう、外交上のものを含むあらゆる努力を払う。個々の事態の状況について共通の認識に到達した場合に、各々の行う活動を効果的に調整する。周辺事態に対応する際にとられる措置は、情勢に応じて異なり得るものである。

1.周辺事態が予想される場合
 周辺事態が予想される場合、日米両国政府は、その事態について共通の認識に到達するための努力を含め、情報交換および政策協議を強化する。日米両国政府は、事態の拡大を抑制するため、外交上のものを含むあらゆる努力を払うとともに、日米共同調整所の活用を含め、日米間の調整メカニズムの運用を早期に開始する。適切に協力しつつ、合意によって選択された準備段階に従い、整合のとれた対応を確保するために必要な準備を行う。情勢の変化に応じ、情報収集および警戒監視を強化し、情勢に対応するための即応態勢を強化する。

2.周辺事態への対応
 周辺事態への対応に際し、日米両国政府は、事態の拡大抑制のためのものを含む適切な措置をとる。これらの措置は、上記IIに掲げられた基本的な前提および考え方に従い、各々の判断に基づいてとられる。日米両国政府は、適切な取り決めに従って、必要に応じて相互支援を行う。

(1)日米両国政府が各々主体的に行う活動における協力
 日米両国政府は、以下の活動を各々の判断の下に実施することができるが、日米間の協力は、その実効性を高めることとなる。
(イ)救援活動および避難民への対応のための措置
 日米両国政府は、被災地の現地当局の同意と協力を得つつ、救援活動を行う。各々の能力を勘案しつつ、必要に応じて協力する。避難民の取り扱いについて、必要に応じて協力する。避難民が日本の領域に流入してくる場合、日本がその対応の在り方を決定するとともに、主として日本が責任を持ってこれに対応し、米国は適切な支援を行う。

(ロ)捜索・救難
 日米両国政府は、捜索・救難活動について協力する。日本は、日本領域および戦闘行動が行われている地域とは一線を画される日本の周囲の海域において捜索・救難活動を実施する。米国は、米軍が活動している際には、活動区域内およびその付近での捜索・救難活動を実施する。

(ハ)非戦闘員を退避させるための活動
 日本国民または米国国民である非戦闘員を第三国から安全な地域に退避させる必要が生じる場合には、日米両国政府は、自国の国民の退避および現地当局との関係について各々責任を有する。日米両国政府は、各々が適切であると判断する場合には、有する能力を相互補完的に使用し、輸送手段の確保、輸送および施設の使用に係るものを含め、非戦闘員の退避に関して、計画に際して調整し、実施に際して協力する。
 日本国民または米国国民以外の非戦闘員について同様の必要が生じる場合には、日米両国が、各々の基準に従って、第三国の国民に対して退避に係る援助を行うことを検討することもある。

(ニ)国際の平和と安定維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動
 日米両国政府は、国際の平和と安定の維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動に対し、各々の基準に従って寄与する。日米両国政府は、各々の能力を勘案しつつ、適切に協力する。協力には情報交換、国連安全保障理事会決議に基づく船舶の検査に際しての協力が含まれる。

(2)米軍の活動に対する日本の支援
(イ)施設の使用
 日米安全保障条約およびその関連取り決めに基づき、日本は、必要に応じ、新たな施設・区域の提供を適時かつ適切に行うとともに、米軍による自衛隊施設、民間空港・港湾の一時的使用を確保する。

(ロ)後方地域支援
 日本は、日米安全保障条約の目的の達成のため活動する米軍に対し、後方地域支援を行う。この支援は、米軍が施設の使用および種々の活動を効果的に行うことを可能とすることを主眼とする。後方地域支援は、主として日本の領域において行われるが、戦闘行動が行われている地域とは一線を画される日本の周囲の公海およびその上空において行われることもあると考えられる。後方地域支援を行うに当たって、日本は、中央政府および地方公共団体が有する権限および能力ならびに民間が有する能力を適切に活用する。自衛隊は、日本の防衛および公共の秩序維持のための任務の遂行と整合を図り、適切に支援を行う。

(3)運用面における日米協力
 周辺事態は日本の平和と安全に重要な影響を与えることから、自衛隊は生命・財産の保護および航行の安全確保を目的とし、情報収集、警戒監視、機雷の除去等の活動を行う。米軍は周辺事態により影響を受けた平和と安全回復のため活動を行う。

VI 指針の下で行われる効果的な防衛協力のための日米共同の取り組み
 日米防衛協力を効果的に進めるためには、平素、日本に対する武力攻撃および周辺事態という安全保障上の種々の状況を通じ、日米両国が協議を行うことが必要である。日米防衛協力が確実に成果を上げていくためには、双方が様々なレベルにおいて十分な情報の提供を受けつつ、調整を行うことが不可欠である。このため、日米安全保障協議委員会および日米安全保障高級事務レベル協議を含むあらゆる機会をとらえて情報交換および政策協議を充実させていくほか、協議の促進、政策調整および作戦・活動分野の調整のため二つのメカニズムを構築する。
 第一に、日米両国政府は、計画についての検討を行うとともに共通の基準および実施要領等を確立するため、包括的なメカニズムを構築する。自衛隊および米軍のみならず、各々の政府のその他の関係機関が関与する。この包括的なメカニズムの在り方を必要に応じて改善する。日米安全保障協議委員会は、このメカニズムの行う作業に関する政策的な方向性を示す上で引き続き重要な役割を有する。日米安全保障協議委員会は、方針を提示し、作業の進捗を確認し、必要に応じて指示を発出する責任を有する。防衛協力小委員会は、共同作業で、日米安全保障協議委員会を補佐する。

 第二に、日米両国政府は、緊急事態において各々の活動に関する調整を行うため、両国の関係機関を含む日米間の調整メカニズムを平素から構築しておく。

1.計画についての検討ならびに共通の基準および実施要領等の確立のための共同作業 
 包括的なメカニズムにおいては、以下に掲げる共同作業を計画的かつ効率的に進める。 作業の進捗および結果は、節目節目に日米安全保障協議委員会および防衛協力小委員会に報告される。

(1)共同作戦計画についての検討および相互協力計画についての検討
 自衛隊および米軍は、日本に対する武力攻撃に際して整合のとれた行動を円滑かつ効果的に実施し得るよう、平素から共同作戦計画について検討を行う。周辺事態に円滑かつ効果的に対応し得るよう、平素から相互協力計画についての検討を行う。
 共同作戦計画の検討および相互協力計画の検討は、その結果が日米両国政府の各々の計画に適切に反映されることが期待されるという前提の下で、種々の状況を想定しつつ行われる。実際の状況に照らして、日米両国各々の計画を調整する。日米両国政府は、共同作戦計画についての検討と相互協力計画についての検討との間の整合を図るよう留意することにより、周辺事態が日本に対する武力攻撃に波及する可能性のある場合または両者が同時に生起する場合に適切に対応し得るようにる。

(2)準備のための共通の基準の確立
 日米両国政府は、日本の防衛のための準備に関し、共通の基準を平素から確立する。  基準は、各々の準備段階における情報活動、部隊の活動、移動、後方支援その他の事項を明らかにするものである。日本に対する武力攻撃が差し迫っている場合には、日米両国政府の合意により共通の準備段階が選択され、これが、自衛隊、米軍その他の関係機関による日本の防衛のための準備のレベルに反映される。日米両国政府は、周辺事態における協力措置の準備に関しても、合意により共通の準備段階を選択し得るよう、共通の基準を確立する。

(3)共通の実施要領等の確立
 日米両国政府は、自衛隊および米軍が日本の防衛のための整合のとれた作戦を円滑かつ効果的に実施できるよう、共通の実施要領等をあらかじめ準備しておく。通信、目標位置の伝達、情報活動および後方支援ならびに相撃防止のための要領とともに、各々の部隊の活動を適切に律するための基準が含まれる。自衛隊および米軍は、通信電子活動等に関する相互運用性の重要性を考慮し、相互に必要な事項を定めておく。

2.日米間の調整メカニズム
 日米両国政府は、両国の関係機関の関与を得て、日米間の調整メカニズムを平素から構築し、日本に対する武力攻撃および周辺事態に際して各々が行う活動の間の調整を行う。
 調整の要領は、調整すべき事項および関与する関係機関に応じて異なる。調整の要領には、調整会議の開催、連絡員の相互派遣および連絡窓口の指定が含まれる。自衛隊および米軍は、この調整メカニズムの一環として、双方の活動について調整するため、必要なハードウエア、ソフトウエアを備えた日米共同調整所を平素から準備しておく。

VII 指針の適時かつ適切な見直し
 日米安全保障関係に関連する諸情勢に変化が生じ、その時の状況に照らして必要と判断される場合には、日米両国政府は、適時かつ適切な形でこの指針を見直す。

周辺事態における協力の対象となる機能及び分野並びに協力項目例(別表)
機 能 及 び 分 野 協 力 項 目 例
【米両国政府が各々 主体的に行う活動における協力】
・救援活動及び避難民への対応のための措置
○被災地への人員及び補給品の輸送
○被災地における衛生、通信及び輸送
○避難民の救援及び輸送のための活動並びに避難民に対する応急物資の支給
・捜索・救難
○日本領域及び日本の周囲の海域における捜索・救難活動並びにこれに関する情報の交換
・非戦闘員を退避させるための活動
○情報の交換並びに非戦闘員との連絡及び非戦闘員の集結・輸送
○非戦闘員の輸送のための米航空機・船舶による自衛隊施設及び民間空港・港湾の使用
○非戦闘員の日本入国時の通関、出入国管理及び検
○日本国内における一時的な宿泊、輸送及び衛生に係る非戦闘員への援助
・国際の平和と安定の維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動
○経済制裁の実効性を確保するために国際連合安全保障理事会決議に基づいて行われる船・舶の検査及びこのような検査に関連する活動
○情報の交換
・米軍の活動に対する日本の支援 施設の使用
○補給等を目的とする米航空機・船舶による自衛隊施設及び民間空港・港湾の使用>
○自衛隊施設及び民間空港・港湾における米国による人員及び物資の積卸しに必要な場所 及び保管施設の確保
○米航空機・船舶による使用のための自衛隊施設及び民間空港・港湾の運用時間の延長
○米航空機による自衛隊の飛行場の使用
○訓練・演習区域の提供
○米軍施設・区域内における事務所・宿泊所等の建設
・米軍の活動に対する日本の支援後方地域支援
補給
○自衛隊施設及び民間空港・港湾における米航空機・船舶に対する物資(武器・弾薬を除く。)及び燃料・油脂・潤滑油の提供
○米軍施設・区域に対する物資(武器・弾薬を除く。)及び燃料・油脂・潤滑油の提供
輸送
○人員、物資及び燃料・油脂・潤滑油の日本国内における陸上・海上・航空輸送
○公海上の米船舶に対する人員、物資及び燃料・油脂・潤滑油の海上輸送
○人員、物資及び燃料・油脂・潤滑油の輸送のための車両及びクレーンの使用
整備
○米航空機・船舶・車両の修理・整備
○修理部品の提供
○整備用資器材の一時提供
衛生
○日本国内における傷病者の治療
○日本国内における傷病者の輸送
○医薬品及び衛生機具の提供
警備
○米軍施設・区域の警備
○米軍施設・区域の周囲の海域の警戒監視
○日本国内の輸送経路上の警備
○情報の交換
通信
○日米両国の関係機関の間の通信のための周波数(衛星通信用を含む。)の確保及び器材の提供

米軍の活動に対する日本の支援後方地域支援
その他
○米船舶の出入港に対する支援
○自衛隊施設及び民間空港・港湾における物資の積卸し
○米軍施設・区域内における汚水処理、給水、給電等
○米軍施設・区域従業員の一時増員
運用面における日米協力
警戒監視
○情報の交換
機雷除去
○日本領域及び日本の周囲の公海における機雷の除去並びに機雷に関する情報の交換
海・空域調整
○日本領域及び周囲の海域における交通量の増大に対応した海上運航調整
○日本領域及び周囲の空域における航空交通管制及び空域調整

【3】参考文献等
 皆さんは、これらの材料をもとにしてどんなことを考えますか?特に若い世代の人たちは、今、自分たちが置かれるている状況について、考えてみるきっかけの一つの材料になってくれればと思います。
・森 英樹 渡辺 治 水島 朝穂 編「グローバル安保体制が動き出す」日本評論社
・歴史科学協議会 編「日本現代史」青木書店
・三省堂 編 「世界史の整理」 等

                               柳下 換