第3章 オルタナティブ教育としての実践例として
                −「鎌倉・風の学園」高校−


 1.経緯

 前章においても若干述べたが、「鎌倉・風の学園」の設立ならびに設立後の経緯を紹介する。日本のオルタナティブスクールの先駆である「鎌倉・風の学園」は、1983年より神奈川県の鎌倉市において活動を開始した民間の教育機関である「鎌倉地域教育センター」の実践が土台となり、1996年から高校生相当の子どもたちを対象として3年課程の学校として開校された。学園の特色は、自律的学習者の育成と援助を意識し、個別の学習カウンセリングを重視したセルフサポートシステムを学習方法にとり入れ、学園の学習テーマである「自由」「自律」「平和」に関する学習素材を中心とした総合的学習を個別・集団・フィールドワークなどの様々な授業形式で学べるように準備されている。もう既に、2004年の段階において50名近い卒業生を輩出し、皆、進学・就職等、社会で活躍をしている。

 本章における以下の節は、「鎌倉・風の学園」の学校要項より引用し紹介する。

 
2.教育理念

 学園の教育理念は、

 教育は、施されるものではなく、学習者の主体的な学習要求に対して支援をするものであると私たちは考えます。近代教育の多くは、国家の人材育成の一環として教育という制度を合理的に利用をしたものに他ありません。ある意味、教育という営みを狭義の ものとしてとらえ、国の政策の一貫として位置づけるのであれば、こうした定義も否定できるものではありません。しかし、戦後の日本においては、日本国憲法ならびに教育 基本法の言葉にもあるように、教育はすべての国民に対して保証されている社会的な権利として位置づけられています。そして、その目的は、国家のための人材育成ではなく、各個人の人格の完成をめざすものと重ねて強調されているのです。したがって、ここで 私たちが掲げる教育の理念は、教育とは、学習者どうしの「学び合い」という基本的原則のもと、学習者の主体的意識に添って、学習者が本来持っているはずの学習に対する可能性や個人としての持ち味を引き出すための援助であると位置づけます。











  としている。

 
3.教育の目標

 学園の教育目標は、

 私たちの教育の目標は、「人間として、広い視野にたった統一的な展望を創りあげることができる自己形成力を養う」としています。この目標の意味は、大きく分けて3つの部分から成り立っています。人間として広い視野に立つ。統一的な展望を作り上げる。自己形成力を養う。これらのことをもう少し丁寧に表現をすれば、人類がより人間らしく生きるための希望や理想を持ち、それを表現するために努力をしていこうという立場にたって、人類がその歴史の中で得てきた数多くの経験や印象を、人類のよりよい生存のために役立たせる統一的な方法を考えていけるような主体的な意識を育てていこうとするものです。








  としている。

 
4.学習の方法(通学コースのテクニカルコースを中心に)

 学習の方法としては、

 私たちが考えている目標の1つは、「自律的学習者をめざす」というものです。「自律的学習者」すなわち、科学的認識力を持った主体的な学習者を育てていくにはどうしたらよいのかと考えました。目標を考えるために2つの点について考察と準備をしました。第1の点は、方法論(カリキュラム)において、どういった柱を確立していったらよいのか。また、第2の点では、そうした個々の方法を有効に機能させるためのプログラム全体のテーマを何にすべきか。これらの点について、時間的配分も十分に考慮しながら、短期的目標と長期的目標とを立てつつ、さらにそれらの目標が有機的に結合した時、違和感なくプログラム修了後も含めて発展できるように考え、学習の方法を準備しました。

 学校全体の学習方法論で重視したのは、「記録」「討論」「実証」の各要素でした。私たちの学校にかかわるさまざまなカリキュラムの構成ならびに教授の流れを、次のようにしました。@問題提起(直観力養成)、A仮説形成力養成、B討論力養成、C実証力養成、D論理力養成。これらの学習の流れは、短期、長期にわたり各カリキュラムならびにプログラムの学習方法として絶えず意識されています。

 短期のカリキュラムとして各年度ごとに、(学年制をとっているわけではありませんが、1年度ごと、3年度で一巡するように組まれています。)用意をされているカリキュラムは、必修の教科と選択の教科にわかれます。選択の教科は学生自身が教員と相談をして学習内容と学習計画を学校に履修登録をすることによりスタートします。必修の教科は、原則として必修教科の領域を学校側が指定をしていますので、その領域毎に学習内容と学習計画を選択教科と同じように学生と教員が個別に相談をして決めます。ただし、ここで注意をしていただきたいことは、私たちの学校の卒業資格を得るためには、卒業のための条件をクリアする必要があります。私たちにとっての卒業の条件とは、学校は単位制なので、必修ならびに選択にあたる各教科の単位を取得するということになります。学生たちは、最短で3年間という時間の中で、必修教科や選択教科の定められた単位数(学習時間数)を取得しなくてはいけません。

 それでは次に、前述した流れが実際の学習活動とどのように関連をしているか説明をしましょう。問題提起(直観力養成)の機会として、私たちが用意しているものは、3つあります。そのうちの2つは、唯一、私たちの学校が、学生たちに対して、義務必修として課しているものです。月別学習記録表と教科履修票の提出です。月別学習記録は、学生たちが1ヶ月のなかで主体的な意識のもとに行った学習の履歴を、記録し、提出するものです。これをもとにして、教員からの学習カウンセリングや単位の認定がされます。月別の学習記録が提出されないと学習者に対する学習カウンセリングを開始することができませんので、当校において学習をするにあたり、とても重要な学習活動です。そして、教科履修票は、各教科の学校への履修登録と学習プランの提出になります。3つめは、どういった学習から手をつけていったらよいかわからない学生のために、いわゆるウェッブ上に展開をされている学習リソース群です。このリソースを利用するためには、学習リソースセンターへの履修登録が必要になってきます。このようにして、第1段階として、今までの生活の中などに埋没してしまっていた学習を今一度、掘り起こすための作業がこの段階で行われるのです。

 次に、2番目として、こうした、「なぜ、こんなことが起きているんだろう」だとか、「なぜ、こうなったんだろうか」などという、学習に対する問題提起を感じ取った学生たちに対して、仮説形成や討論の場として用意されているのが、必修ゼミナールや巡回スクーリング、そしてウェッブ上に用意されている討論専用の掲示板だったりするのです。必修ゼミナールの年次体系は表を見ていただくとして、その議論の内容は、各ゼミごとにあるテーマに対してであったり、社会の中で起きているさまざまな出来事などに対しての討論ならびに実証の方法などについて議論される機会となっています。

 そして、3番目に行われるのが、実証力養成ということになります。理科的にいえば実験ということになるでしょうか。そうした場として、私たちは、1年次のフィールド ワーク「沖縄」、2年次のフィードワーク「アウシュビッツ(オシフェンチム)」、3年次のフィールドワーク「ベトナム」を用意し、さらにシーズン毎に、「農業実習」「サバイバルキャンプ」などのシーズンプログラムも用意されています。こうした、総合的な学習は、実証の場であると同時に1年間、3年間の学習活動を総合的な視野から有機的に結びつける役目をもっています。

 最後に、こうした1年間ならびに3年間の学習の成果を論理化する試みとして、年に一度の学習報告会、論述式の年度末到達度テストや卒業テスト、卒業論文ならびに卒業テーマ学習が用意されています。さらに、こうした日々の学習活動は、最初の段階で提示をした月別学習記緑として、その各学習は学習履歴化(ポートフォリオ化)されています。そして、再び問題提起(直観力養成)に戻り、同じ方法論であったとしても質的に発展をした新たな学習がはじまるのです。このような状態を私たちは、逆螺旋状の発展形態をもった学習体系としてイメージしています。(図表3−1・3−2・3−5)



























































としている。


 
5.総合的テーマ「自由」「自律」「平和」について

 学園の学習テーマである「自由」「自律」「平和」については次のように述べられている。

 次に話をさせていただくのは、こうした個別の分析的学習を束ねる意味を持つ総合的学習テーマを何にしたのかという点についてです。総合的な学習テ−マを何にしようかと考えた時、まっさきに頭に浮かんだ言葉は、「人間」という言葉でした。今ほど「人間」という問題が問われている時代はないと思ったからです。私たちの教育目標を考えたとき、その一つが「自律的な学習者をめざす」ことであったことは先にも書きました。人が自律的な意識を持つためには自分自身が「自由」にならなくてはいけません。ただ勘違いしていただきたくないのは、私たちが言っている「自由」とは、いわゆる好き勝手な自由ではありません。己を律した上で確立した真の「自由」です。この視点にたいして、簡単な解釈を付け加えるとすれば、「自由」の意志、つまり、自己の人格の完成をめざすのには、環境は2次的な問題であるということです。すなわち、 自分の意識の中に「自由」という意識を確立していくことが、自分自身を真に「自由」にすることであると学習者たちに知ってもらいたいと思ったのです。「自由」な意志をもつことこそ、人間としての証であり、「平和」の意志だと思ったのです。このことを思っただけでは教育ではありません。学習者たちに真に「自由」になってほしい。そのための方法として学ぶべきテーマはと考えたのが、「平和」というテーマであったのです。すなわち、「平和」というテーマを学習していくことによって、各学習者たちが自分自身の「自由」を取り戻してもらいたい。そして、自分自身の意識が自由になった時、人は本当の意味で「平和」になれるということを知ってもらいたいと思ったのです。ゆえに、私たちの学校のメイン学習テーマとして、「平和」というテーマを揚げたのです。したがって、総合的学習の柱として、世界の中で「平和」の意志が凝縮された場所のフィールドワークをプログラムの中心に据えたのです。

 フィールドワーク学習の場所として、私たちは、「沖縄」「アウシュビッツ(オシフェンチム)」「ベトナム」を選びました。これらの場所に共通してある平和に対する意識や日本とこれらの地域との間にある相対的な関係などを、そこに住んでいる生活者の視点から学習することによって、一人一人の人間の中にある人としての基本意識である平和でありたいと思う意識(自律的に自由でありたいと思う意識)は、イデオロギーや社会体制や人種や地域には関係がないということを学んでもらいたいと思っているのです。強制では、人からその意識を奪うことはできないということ、これは、教育に強制は必要がないということとも一致します。(図表3−3・3−4・3−6)



























 
6.教員の役割

 教員の役割については、

 そして、この項の最後に、当校における教員の役割について付け加えさせていただきたいと思います。私たちは、私たちの教育の実現化に向けて、前述したような目標や方法を駆使して実践を進めているわけなのですが、ここで、確認をしておかなければいけないことは、私たち教員の役割ということです。私たちの学校において、教員は、学習者たちが本来持っているはずの持ち味を引き出すための援助者であるということをあらゆる場面において肝に銘じています。私たちは、ただ単なる知識や技術の切り売り者ではなく、学習者たちとの学習カウンセリングやディスカッションを通じて、よき伴走者になりたいと願っています。彼らが主体的な学びを開始した時に、それらの学習活動がよりスムーズに進むよう、環境を整え、よい材料を用意し、方法や考え方の的確なアドバイスをする。これが、私たちの大きな役目だと思っています。











 
7.評価

 評価に関しては次のようにしている。

 原則として評価は自己評価であるべきとしています。これは学力というものは、可変的なものであると同時に未来に対する可能性を表すものであると考えているからです。まずは、自分で行った学習に対して、自分なりに評価を付けることをしてもらいます。その結果をもとにして、それらの学習経過、内容、量などを知っている担当教員が評価を出し、両者が合意のもと最終評価を確定します。





                          以上「鎌倉・風の学園」学校要項より引用

 本来であれば、風の学園における具体的な学習内容実践報告も付加したいところであるが、本論の目的はそこにあるわけではないので、風の学園の概要的な説明でこの節は終えることとする。

           各必修カリキュラムの中心的教授の流れ[図表3−1]

問題提起
(直観)
仮 説
(予想)
討 論 実 験
(実証)
法則化
(一般化)


       週間必修カリキュラム(スクーリング授業)(方法的学習)[図表3−2]

1年次
学習の仕方−1 学習の仕方−2 HBEPの理解と方法
2年次
自然系ゼミ 社会系ゼミ 精神系ゼミ 身体系ゼミ
3年次
テーマ学習(卒業論文・卒業制作・ポートフォリオ作成・卒業試験)
各担当教員の卒業ゼミナールに所属をしてテーマ学習指導


          必修フィールドワーク授業(総合的平和学習)[図表3−3]

1年次
フィールドワーク「沖縄」
(長期滞在型・定点観測・生活者視点・直観力養成)
2年次
フィールドワーク「アウシュビッツ」
(長期滞在型・定点観測・生活者視点・矛盾認識)
3年次
フィールドワーク「ベトナム」
(総合性・全面性・統一性・対立性・発展性などの理解)


           フィールドワーク「沖縄」の学習視点例[図表3−4]

自然 社会 人間
基本的学習資源 ・地理
・生態
・歴史 ・民族
動機的学習資源 ・観光 ・日本国憲法
・アメリカ軍基地
・沖縄戦
学習資源管理者 ・日本(政府・自治体)
・アメリカ合衆国
 産業
・県内企業
・県外企業


       テクニカルコース卒業のために必要な3年間での総単位数[図表3−5]

科目 単位 1単位は180時間
 国語  4.0単位  720.0時間
 英語  2.0単位  360.0時間
 スピーチ(ゼミなどによる発表)  0.5単位   90.0時間
 数学  2.0単位  360.0時間
 社会
  公民(政治経済)
  歴史
  地理
 1.0単位
 1.0単位
 0.5単位
 180.0時間
 180.0時間

  90.0時間
 理科(物理・化学・生物・地学)  3.0単位  540.0時間
 体育  1.5単位  270.0時間
 選択科目  6.5単位 1170.0時間
 ボランティア(活動の記録提出)  1.7単位  306.0時間
 読書(読書リスト提出) 3年間で100冊以上
 合計 23.7単位 4266.0時間


                  学びの逆螺旋[図表3−6]


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