テクニカルコース

 私たちが考えている目標の1つのかたちが、「自律的学習者をめざす」というものであることは明白です。自律的学習者、すなわち、科学的認識力を持った主体的な学習者を育成するにはどうしたらよいのでしょうか。このことを考えるためにテクニカルコースでは、2つの点について考察と準備をしました。第1の点は、方法論(カリキュラム)の点において、どういった柱を確立していったらよいのか。また、第2の点では、そうした個々の方法を有効に機能させるためのプログラム全体のテーマを何にすべきか。私たちの教育実践において、とくにその時間的配分も十分に考慮に入れ、短期的展望と長期的展望、そして、それらが有機的に結合した時、なんら違和感なくさらに発展できるようなイメージをどのように実現化していくのかという点を留意しました。

学習方法

 学校全体の学習方法論で重要視したのは、「記録」「討論」「実証」でした。そこで、私たちの学校にかかわるさまざまのカリキュラムの構成ならびに教授の流れを、次のようにしました。1.問題提起(直観力養成)、2.仮説形成力養成、3.討論力養成、4.実証力養成、5.論理力養成。 これらの学習のながれは、短期、長期にわたり各カリキュラムならびにプログラムの学習方法として絶えず意識されています。短期のカリキュラムとして各年度ごとに、(学年制をとっているわけではありませんが、1年度ごと、3年度で一巡するように組まれています。)用意をされているカリキュラムは、必修のカリキュラムと選択のカリキュラムにわかれます。選択のカリキュラムは登録制のため、学生が学習リソースセンターに登録することによって発生をしますので、必修のカリキュラムを中心に話をしたいと思います。ただし、ここで注意をしていただきたいのは、私たちの学校の卒業資格を得るためには、卒業のための条件をクリアする必要があります。私たちにとっての卒業の条件とは、私たちの学校は単位制なので、必修にあたる各教科の単位を取得するということです。学生たちは、最短で3年間という時間の中で、学校の必修カリキュラムや選択教科、そして、生活のなかで行った学習を含めたかたちで、定められた単位数(学習時間数)を取得しなくてはいけません。さて、それでは、前述した流れが、実際の学習活動とどのように関連をしているか説明をしましょう。1の問題提起(直観力養成)の機会として、私たちが用意しているものは、3つあります。そのうちの2つは、唯一、私たちの学校が、学生たちにたいして、義務必修として課しているものです。月別学習記録表と教科履修表の提出です。月別学習記録は、学生たちが1ヶ月のなかで主体的な意識のもと行った、学習の履歴を記録し提出するものです。これをもとにして、サポートティーチャー(メントア)からの学習カウンセリングや単位の認定がされます。月別の学習記録が提出されないと学習者に対する学習カウンセリングを開始することができませんので、当校において学習をするにあたり、とても重要な学習活動です。そして、教科履修表は、各教科の学校への履修登録と学習プランの提出になります。3つめは、どういった学習から手をつけていったらよいかわからない学生のために、いわゆるウェッブ上に展開をされている学習リソース群です。このリソースを利用するためには、学習リソースセンターへの履修登録が必要になってきます。このようにして、第1段階として、いままでの生活のなかなどに埋没してしまっていた学習というものをいま一度、掘り起こすための作業がこの段階で行われるのです。次に、2番目として、こうした、「なぜ、こんなことが起きているんだろう」だとか、「なぜ、こうなったんだろうか」などという、学習にたいする問題提起を感じ取った学生たちにたいして、仮説形成や討論の場として用意されているのが、必修ゼミナールや巡回スクーリング、そしてウェッブ上に用意されている討論専用の掲示板だったりするのです。必修ゼミナールの年次体系は表を見ていただくとして、その議論の内容は、各ゼミごとにあるテーマにたいしてだったり、社会の中で起きているさまざまな出来事などにたいしてのディスカッションならびに実証の方法などについて議論されるのです。そして、3番目に行われるのが、4つ目の実証力養成ということになります。理科的にいえば実験ということになるでしょうか。そうした場として、私たちは、1年次のフィールドワーク「沖縄」、2年次のフィードワーク「アウシュビッツ(オシフェンチム)」、3年次のフィールドワーク「ベトナム」を用意し、さらにシーズン毎に、「農業実習」「サバイバルキャンプ」などのシーズンプログラムが用意されています。こうした、総合的な学習は、実証の場であると同時に1年間、3年間の学習活動を総合的な視野から有機的に結びつける役目をもっています。最後に、こうした、1年間ならびに3年間の学習の成果を論理化する試みとして、年に一度の学習報告会、論述式の年度末到達度テストや卒業テスト、卒業論文ならびに卒業テーマ学習が用意されています。さらに、こうした日々の学習活動は、最初の段階で提示をした月別学習記緑としてその各学習は学習履歴化(ポートフォリオ化)されていくのです。そして、1.に戻り、同じ方法論であったとしても質的に発展をした新たな学習がはじまるのです。このような状態を私たちは、逆螺旋状の発展形態をもった学習体系としてイメージしています。

各必修カリキュラムの中心的教授の流れ
問題提起
(直観)
仮 説
(予想)
討 論
実 験
(実証)
法則化
(一般化)



週間必修カリキュラム(スクーリング授業)(方法的学習)
1年次
学習の仕方-1
学習の仕方-2
HBEPの理解と方法

2年次
自然系ゼミ
社会系ゼミ
精神系ゼミ
身体系ゼミ

3年次
テーマ学習(卒業論文、卒業製作、ポートフォリオ作成、卒業試験)
各担当教員の卒業ゼミナールに所属してテーマ学習指導


テクニカルコース卒業のために必要な3年間での総単位数
科 目
単 位
1単位は180時間
国 語
4.0単位
720.0時間
英 語
2.0単位
360.0時間
スピーチ
(ゼミによる発表など)
0.5単位
90.0時間
数 学
2.0単位
360.0時間

社 会
公民(政治経済)
歴 史
地 理

1.0単位
1.0単位
0.5単位
180.0時間
180.0時間
90.0時間
理 科
(物理・化学・生物・地理)
3.0単位
540.0時間
体 育
1.5単位
270.0時間
選択科目
6.5単位
1170.0時間
ボランティア
(活動の記録提出)
1.7単位
306.0時間
読書(読書リスト提出)
3年間で100冊以上
合 計
23.7単位
4266.0時間

総合的テーマ「平和」

 次に、話をさせていただくのは、こうした、個別の分析的な学習を束ねる意味を持つ総合的テーマを学校としていかにもつのかという点についてです。総合的なテ−マを何にしようかと考えた時、まっさきに頭に浮かんだ言葉は、「人間」という言葉でした。今ほど、「人間」という問題が問われている時代はないと思ったからです。私たちの教育目標を考えたとき、そのひとつが、「自律的な学習者をめざす」ことであったことは先にも書きました。人が自律的な意識をもつためには、自分自身が、「自由」にならなくてはいけません。ただ勘違いしていただきたくないのは、私たちが言っている、「自由」とは、いわゆる好き勝手な自由ではありません。己を律した上で確立した真の「自由」です。この視点にたいして、簡単な解釈を付け加えるとすれば、「自由」の意志、つまり、自己の人格の完成をめざすのには、環境は2次的な問題であるということ、すなわち、自分の意識の中に、「自由」という意識を確立していくことが、自分自身を自由にすることであるということを学習者たちに知ってもらいたいと思ったのです。自由な意志をもつことこそ、人間としての証であり、「平和」の意志だと思ったのです。このことを思っただけでは、教育ではありません。学習者たちに真に自由になってほしい。そのための方法として学ぶべきテーマはと考えたのが、「平和」というテーマであったのです。すなわち、「平和」というテーマを学習していくことによって、各学習者たちが、自分自身の「自由」を取り戻してもらいたい、そして、自分自身の意識が自由になった時、人は平和になれるということを知ってもらいたいという思いのもと、私たちの学校のメインテーマとして、「平和」というテーマを揚げたのです。それゆえに総合的学習としての柱として、世界の中で、「平和」の意志が凝縮された場所のフィールドワークをプログラムの中心に据えたのです。フィールドワークの場所として、私たちは、「沖縄」「アウシュビッツ(オシフェンチム)」「ベトナム」を選びました。これらの場所に共通してある平和にたいする意識や日本とこれらの地域との間にある相対的な関係などを、そこに住んでいる生活者の視点から学習することから、一人ひとりの人間の中にある人としての基本意識である平和でありたいと思う意識(自律的に自由でありたいと思う意識)は、イデオロギーや利潤や人種や地域には関係がないということを学んでもらいたいと思っているのです。強制では、人からその意識を奪うことはできないということ、これは、教育に強制は必要がないということと一致します。


必修フィールドワーク授業(総合的学習)
1年次
フィールドワーク『沖縄』
(長期滞在型・定点観測・生活者視点・直観力養成)

2年次
フィールドワーク『アウシュビッツ』
(長期滞在型・定点観測・生活者視点・矛盾認識)

3年次

フィールドワーク『ベトナム』
(総合性・全面性・統一性・対立性・発展性などの認識)



フィールドワーク『沖縄』の実際例

自然
社会
人間
基本的資源
・地理
・生態
・歴史
・民族
動機資源
・観光
・日本国憲法
・アメリカ軍基地
・沖縄戦
資源管理者
・日本(政治・自治体)
・アメリカ合衆国
産業
・県内企業
・県外企業

学びの逆螺旋

教員(メントア)の役割

そして、この項の最後に、当校における教員の役割について、つけくわえさせていただきたいとおもいます。私たちは、私たちの教育の実現化に向けて、前述したような目標や方法を駆使して実践をすすめているわけなのですが、ここで、確認をしておかなければいけないことは、私たち教員の役割ということです。私たちの学校において、教員は、学習者たちが本来持っているはずの持ち味を引き出すための援助者であるということをあらゆる場面において肝に銘じております。私たちは、ただ単なる知識や技術の切り売り者ではなく、学習者たちとの学習カウンセリングやディスカッションをつうじて、よき伴走者になりたいと願っています。彼らが主体的な学びを開始した時に、それらの学習活動がよりスムーズに進むよう、環境を整え、よい材料を用意し、方法や考え方の的確なアドバイスをする。これが、私たちの大きな役目だと思っています。