−リベラルコース−

 私たちが考えている目標の1つのかたちが、「自律的学習者をめざす」というものであることは明白です。自律的学習者、すなわち、科学的認識力を持った主体的な学習者を育成するにはどうしたらよいのでしょうか。このことを考えるためにリベラルコースでは、2つの点について考察と準備をしました。第1の点は、方法論(カリキュラム)の点において、どういった柱を確立していったらよいのか。また、第2の点では、そうした個々の方法を有効に機能させるためのプログラム全体のテーマを何にすべきか。私たちに教育実践において、とくにその時間的配分も十分に考慮に入れ、短期的展望と長期的展望、そして、それらが有機的に結合した時、なんら違和感なくさらに発展できるようなイメージをどのように実現化していくのかという点などについていろいろ考えました。
  リベラルコース全体の学習方法論で重要視したのは、やはり、「記録」「討論」「実証」でした。家庭における学習が中心である学習者の皆さんに対して、こうした学習の方法をどのように伝えいくのかと考えました。結果として、私たち学習援助者が、学習者に対し学習アドバイスをするときの短期的、長期的意識の流れは、私たちが大事にしている学習プロセスである1.問題提起(直観力養成)、2.仮説形成力養成、3.討論力養成、4.実証力養成、5.論理力養成と言う流れであることに違いはありませんでした。こうした、学習に対する意識の流れをどういったサポートによって、学習者の皆さんに定着させていけばよいのかと考えたとき、私たちは以下のようなサポートの仕方を考えさせてもらいました。

1.問題提起(直観力養成)

 学生たちの必須義務である学習記録書きに対する徹底サポート。提出された記録に対して、メントアは、学習領域、学習時間、学習内容、学びに対する主体的印象の4つの角度から徹底分析をして、アドバイスを出すようにしています。この共同作業は、生活の中に埋没してしまった学びに対する意識や感覚を今一度、甦させる作業です。月別学習記録を提出してくれた学生たちに対して、メントアから、メール、はがき、手紙、FAX、電話、面談等を通じて、学習者の状況に合わせ、1ヶ月に1回以上のコンタクトがあります。

2.仮説形成力養成

 日常生活において、自分にとっての学習素材を見抜く力がついてくると、学習者の意識の中で自然と湧き上がってくるのが、「なぜ、そうなるのか?」と言う疑問の意識だと思います。そこで、なぜ、そうなるのかを自分なりに仮説を立ててもらう、この作業が、仮説形成力の養成です。この段階では、自分の立てた仮説が、結果として間違っていたとしてもさほど問題はありません。主体的な意識のもとに思考の方向性を自分なりに考えてみる。この作業が重要なわけです。一般には、月別の学習記録から発生をした興味事項や月曜日〜金曜日に学校からメールで送られてくる日報における学習ヒントなどをもとにして、レポートなどによる報告を希望させてもらっています。

.討論力養成各学習者たちが自分なりに立てた仮説などをもとにして、意見を言い合うこうした場として、リベラルコースでは、ウエッブ上に学習に関する意見を言う場を用意しています。また、実際に顔を合わせて討論をする場としては、巡回のスクーリングや泊まりがけで来られる集中スクーリングの場などを用意しています。

4.実証力養成

 私たちの学校で一番大事にしているのが、この実証力です。自分の頭で考えたことを最後に実際の社会やフィールドで実行し確かめてみる。自分の立てた仮説が合っているのか、間違っているのか、部分的に合っていたのか間違っていたのか、きちんと自分で実行をしてみて、その中身を検証してみる。そうした、今まで培った、総合的な学習力を試す場として、生活の中での実証性についてアドバイスをすると同時に、意識的な機会として、フィールドワーク沖縄、フィールドワークアウシュビッツ(オシフェンチム)、フィールドワークベトナムや年度末の学習報告会などと言う総合学習の場を用意しています。特に、2000年度からのフィールドワーク3部作においては、従来以上にその学校としての教育実践としての重要性を鑑み、リベラルコース生も含め、実際に現地に赴くむかない関係なく、各自に役割を担ってもらい何らかの形で当校ならではの学習の機会を知ってもらいたいと考えています。

5.論理力養成

 実証によって確かめられた、様々な学びを一つの法則として記録をしていく。すなわち、ここにまた、日々の学習活動の根幹である月別の学習記録を自ら作成していく、分析の作業へと戻っていくわけです。こうした、一連の学習活動を通して、同じ学習記録であってもその中身は、質的に絶えず変化をし続けることになっていくわけです。
  最後にもう一度言います。リベラルコースにおける学習において、もっとも重要な点は、学習者とメントアの間で交わされるコミュニケーションなのです。その材料としての学習の記録の提出は、私たちの学校において、最重要で唯一の学習者の義務であると言うことを覚えておいてください。



各必修カリキュラムの中心的教授の流れ
問題提起
(直観)
仮 説
(予想)
討 論
実 験
(実証)
法則化
(一般化)



リベラルコース卒業のために必要な3年間の総単位数
必須科目
単 位
時間
国 語
4.0単位
720.0時間
英 語
2.0単位
360.0時間
スピーチ
0.5単位
90.0時間
数 学
2.0単位
360.0時間

社 会
公民(政治)
歴 史
地 理

1.0単位
1.0単位
0.5単位
180.0時間
180.0時間
90.0時間
理 科
3.0単位
540.0時間
体 育
1.5単位
270.0時間
選択科目
6.5単位
1170.0時間
合計
22.0単位
3960.0時間


巡回スクーリング年間カリキュラム予定表
1年次
第1回

「知識の伝達はやりません。勉強の仕方を伝授するだけです。」
-学校の歴史-(実験-1)

第2回
「理性を正しく導き、学問において真理を探究するための方法序説」
-みんなで、デカルト-(実験-2)
第3回
「理性的なものだけが生きのびる」
-さて、ヘーゲル-(実験-3)
2年次
第4回

「空気の重さ」
-原子論-(実験-4)

第5回
「江戸時代の農民は何を主食にしていたか」
-歴史の変わり目とは-
第6回
「明治維新」
-社会変革の指針とは-
3年次
第7回
「禁煙・禁酒について」(禁酒法
-歴史を変えると言うこと-
第8回

「差別と迷信」
-身分制度の歴史-

第9回
「日本の戦争の歴史」
-帝国主義はなくなったのか-
第10回
「自律的学習者とは」
-小論文作成-


総合的テーマ「人間そして生活者の視点」

 学び、学習は人間の生活とともに発展をし拡張されてきたものであるはずです。今ある全ての学問は、そのルーツを探れば人間の生活にその源を発していると思います。したがって、自分の回りにある生活を学習者の視点から見直す作業は、「自律的学習者」になるためには必要不可欠な要素であると言えるでしょう。人としての生活者の視点は、そのフィールドが、自分の家の回りであろうが、地方であろうが外国であろうが変わりません。いかにして、その場、その場に生活をする生活者の視点からその土地土地に潜んでいる、平和の意志や自由への闘争や汗の臭いや息づかいや喧噪を読みとれることができるのか、ある意味、優秀な自律的学習者は優秀なフィールドワーカーであるべきだと考えています。

教員(メントア)の役割

 そして、この項の最後に、当校における教員の役割について、つけくわえさせていただきたいとおもいます。私たちは、私たちの教育の実現化に向けて、前述したような目標や方法を駆使して実践をすすめているわけなのですが、ここで、確認をしておかなければいけないことは、私たち教員の役割ということです。私たちの学校において、教員は、学習者たちが本来持っているはずの持ち味を引き出すための援助者であるということをあらゆる場面において肝に銘じております。私たちは、ただ単なる知識や技術の切り売り者ではなく、学習者たちとの学習カウンセリングやディスカッションをつうじて、よき伴走者になりたいと願っています。彼らが主体的な学びを開始した時に、それらの学習活動がよりスムーズに進むよう、環境を整え、よい材料を用意し、方法や考え方の的確なアドバイスをする。これが、私たちの大きな役目だと思っています。